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・この日記ではオリジナルのSSや、時折二次創作のSSが書き連ねてあります。苦手な方・興味のない方は見なかった事にしてご退場下さい。
・二次創作物(特定ジャンルなしにつき、その都度要確認)は、出版社・原作者とは一切関係がございません。また、各公式サイトへの同じ窓で移動は厳禁ですのでどうぞご了承下さい。
・この日記に存在する全てのSSはイチエのものであり、転載・複製は禁止です。
・リンク等につきましては、お手数ですが一度メール(ichie_1516@hotmail.com @→@)にてご連絡下さい。
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2025.04.08 Tue 13:26:31
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2006.12.07 Thu 09:57:33
※このSSと対になっております。
許さない。
許せない。
許したくない。
許してはいけない。
でも 本当は、
大切なものを壊された。
なくしたくないものを消し去られた。
残されたのは自分自身と刻み付けられた印だけだった。
全て奪い尽くされた。
なのに。
許サナイ―――
いつからだ。
許セナイ―――
いつから戸惑うようになった。
許シタクナイ―――
全てを奪い尽くしたあの存在に何を躊躇うというのだ。
許シテハイケナイ―――
言い聞かせなくてはいけない位に何を躊躇うのだ!
本当ハ、―――――
わかっている。
本当に許せないのは
本当に許してはいけないのは
本当に罪に問われるべき存在なのは
許したいと思っている自分自身だと
もう わかっている。
*************
あぁ、どうして。
許さない。
許せない。
許したくない。
許してはいけない。
でも 本当は、
大切なものを壊された。
なくしたくないものを消し去られた。
残されたのは自分自身と刻み付けられた印だけだった。
全て奪い尽くされた。
なのに。
許サナイ―――
いつからだ。
許セナイ―――
いつから戸惑うようになった。
許シタクナイ―――
全てを奪い尽くしたあの存在に何を躊躇うというのだ。
許シテハイケナイ―――
言い聞かせなくてはいけない位に何を躊躇うのだ!
本当ハ、―――――
わかっている。
本当に許せないのは
本当に許してはいけないのは
本当に罪に問われるべき存在なのは
許したいと思っている自分自身だと
もう わかっている。
*************
あぁ、どうして。
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2006.09.26 Tue 00:41:50
今日の日付だけは、何があっても忘れる訳がない。
もうずっと前から準備をしていた位なのだから、忘れるはずがない。
同室の静には軽く呆れられるほどの「忠犬」ならば
やっぱり
忠実なる僕としての愛情を示さなくては。
ガサガサと音を立てる紙袋を手に軽くノックをしてからドアを開ければ、そこには1人机に向かってパソコン入力をしている葵さんがいた。
辺りを見回すけれど、人がいる気配もなければ今し方出て行ったという様子もない。
「あやちゃん、どうしたの? 早く入ればいいのに」
くすくす笑って手招くその人の言葉に従い、ばつが悪く思いつつも素直に室内に足を踏み入れて扉を閉めた。
そうすると完全に他者のいる空間と切り離され、俺と葵さんだけの空間が出来上がる。
「夏目先輩は?」
「霞月は先生の所に資料提出に行ったよ。多分戻ってくるのは30分後じゃないかな? 旭ちゃんは今日7限まであるって言ってたし……しずかちゃんは…」
「ああ、弓道部に先に顔を出すとは言ってました」
「だよね」
にこりと笑ってまたパソコン画面に視線を戻してしまう。
少しだけ伏目がちになるその表情も好きだけれど、カタカタとキーボードを操る音を聞くのも実は好きだったりする。
はっきり言えば、この人の作る空間や音の全てが好きだ。
それが恋愛感情なのか、ただの憧れなのかはわからないけれど。
「葵さん」
「んー?」
「今日、誕生日ですよね、葵さんの」
作業中に話しかける事は滅多にしないけれど、今日だけは特別。
上の空のような声で返事を返したその人は、俺の続いて発した言葉に少しだけ驚いたような顔をしたけれど、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「嬉しいな。覚えててくれたんだね」
「忘れませんよ。去年だって覚えていたでしょう?」
「うん。でもほら、去年は数日前に霞月がその話題を持ち出したから…だから覚えてたのかなって思ってた」
「そこまで俺は薄情に見えますか?」
苦笑してそう尋ねれば、葵さんはパソコンのデータを保存するようにマウスを何度かクリックした後、「あやちゃんは優しいよ」と否定の言葉を告げてくれる。
どこまでも柔らかな笑顔を浮かべるその人との距離を詰めるために歩み寄れば、葵さんは椅子を回転させてパソコンから俺の方へと身体を向けてくれた。
「誕生日、おめでとうございます」
少しだけ緊張するのは、きっとこの人が本当にこのプレゼントを喜んでくれるか不安だから。
こんなのは俺らしくはない、と思うけれど。それでも声が震えなかっただけ誉めてやりたい位だ。
「ありがとう、あやちゃん」
手にしていた紙袋ごと差し出すと、葵さんはまたふわりと微笑んでそれを丁寧に受け取ってくれた。
「開けてもいい?」
「ええ、どうぞ」
そう言いつつも既に紙袋に手を差し込んでいる姿に吹きだしはしなかったものの、どうしても笑みが零れてしまう。
けれど葵さんはそんな俺の様子よりも、プレゼントの中身が気になるらしく、紙袋から取り出した少し大きい箱のリボンを解いていた。
男の割には細くて綺麗な指がリボンの端を摘んで引いていく動作を、やはり緊張しながら見つめる。
リボンという拘束を解かれ、剥き出しになった箱の蓋を開けた途端、葵さんは嬉しそうに声をあげた。
「うわぁ、フォンダンショコラ…! すごい美味しそう!」
甘い物が好きだという葵さんに用意したのは、フォンダンショコラ。
少し小さめのサイズを幾つか作り、潰れないように少し大きめの箱に入れてきたのだが、どうやら潰れる事もなく無事お披露目ができた事にホッとした。
けれど1番ホッとしたのは、嬉しそうな葵さんの顔。
「フォンダンショコラ、好きなんだよね。最近食べてなかったし……今食べてもいい?」
「ええ、もちろん」
やっぱり俺の返事の前に既に箱に手を伸ばして1つ手にとると、葵さんは口を開けてかじりつく。
作ってから大分冷めているから、中のチョコレートがトロトロと出てくる事はないのが少し残念だけれど、外の生地とは違う食感にはなっている。……はずだ。
「ん、美味しい…! これ、マーマレードが入ってる?」
「マーマレードが入っているのと、ビターと、あとオーソドックスなタイプを2つずつ作ってみたんです」
「え? あやちゃんの手作り?」
ショコラを頬張りながら、驚いたように俺を見つめてくる。
モゴモゴと口を動かしながら俺を見上げてくるのは、少し反則だと思う。
小動物みたいで思わず抱き締めたくなる。
その衝動を、この人にだけは発揮される理性を総動員して耐え、こくりと頷いた。
「はい」
「ほんとに?」
「ええ。………そんなに驚く事ですか?」
「だって、あやちゃん料理はしてもお菓子は作らないよね? しずかちゃんが作ったのなら何回か食べた事あるけど……」
「その静に教わって作ったんです。…本当はもうちょっと違うケーキとかも作ってみたかったんですが……」
そう。本当はもう少し凝ったものを作ってみたかった。
そのために1ヶ月も前から静に頼み込んでいたのだから。
けれど静のアドバイスに従い、比較的簡単なものをある程度の種類を揃えて、かつ、完璧に仕上げる事にしたのだ。
「……美味しくなかったですか?」
「ううん! 美味しいってさっきも言ったじゃない。すごく…本当にすごく美味しいよ。すごいね、あやちゃんっておかずとかの料理だけじゃなくて、お菓子もこんなに上手に作れちゃうんだ」
尊敬の眼差しを俺に向けつつ、手の中のフォンダンショコラをぺろりと胃の中に収めてしまう。
手についた粉砂糖を舐める仕草に思わずクラリとするけれど、それも何とか我慢した。
「美味しかったよ。残りは寮で頂くね。レンジで温めたら中のチョコ、ちゃんと溶けるよね」
「はい。あまりかけすぎないでくださいね?」
「わかってるよー?」
くすくす笑いながら、開いた箱を丁寧に戻していく。
踊るように動く指先をぼんやりと見つめていると、あっというまに箱にリボンがかかり、紙袋の中に舞い戻ってしまっていた。
それでもどうやら俺はまだぼんやりしていたようで、目の前に葵さんが手をかざすまで全く気付かなかった。
ああ、不覚…。
「本当にありがとうね、あやちゃん」
「いえ…喜んでもらえましたか?」
「もちろん! 寮に帰るのがすごく楽しみ」
「良かった」
満面の笑顔でそう言ってもらえると、作った甲斐がある。
フォンダンショコラだけじゃなく、甘いケーキが好きな事は知っていたけれど、それでも食べたくない時期だってあるだろう。その時期と被っていたら目も当てられなかった。
……とはいえ、この人が何を考え、どう思っているかがわかった事なんて今まで1度もない。
本当はあまり食べたくない気分だったとしても、俺を落ち込ませないようにきっと美味しそうに食べてくれた事だろう。
「……あーやちゃん?」
「はい?」
「ケーキのお礼、したいんだけど」
「え? でもこれは葵さんの誕生日プレゼントですから。お礼なんていりませんよ」
慌てて首を振る。
そういえばこの人は何かとお礼をしてくる。
嫌な訳じゃないけれど、お礼をもらっていいのだろうか、といつも思う。
今だってそうだ。と、いうより今の場合、本当にもらう必要はないだろう?
「僕がしたいの」
そう言われれば俺が断れない事を、この人は知っているに違いない。
そして本当に俺は断れないのだ。
戸惑いながらも「どんなお礼してくれるんですか?」と問えば、葵さんは少しだけ瞳を細めた。
本当に反則だ。
その表情は、どうしようもなく俺を誘うから。
「今日は、僕のお伺いを立てなくていいから。あやちゃんがしたい事を、僕にして」
緩く首を傾げながら囁くように告げられた言葉に、顔が赤くなりそうだ。
今まで滅多に聞いた事がない「究極のお許し」。
「……本当に?」
「うん」
「でも、それじゃ俺が葵さんにプレゼントした事以上のものがお礼になっちゃいますよ?」
「いいの。あやちゃんがしてくれる事って、僕へのプレゼントにもなるんじゃないかなーって思うんだけど…違う?」
ことり、と反対側に首を傾げて見上げてくる瞳は、相変わらず俺を誘う。
いつもは近寄りがたいほどに高潔なイメージのあるこの人が、こうして誰かを誘う時は途端に雰囲気が変わる。それはもう、性質が悪い位に。
きっと…わかってやっているのだろう。
この人は見た目よりもずっとずっと色んなものを見通している気がするから。
俺の願望も、欲望も、何もかも。
「葵、さん」
「ん?」
「本当にいいですか?」
「うん。いいよ」
にこりと笑いながら、ゆっくりと両腕を持ち上げてきたその人の身体を抱き寄せ、持ち上がった両腕を俺の首に回させる。
久しぶりに間近に感じるこの人の体温に、どうしようもなく身体が熱くなるけれど、今はまだ我慢。
吐息をかんじる位に近くなった顔に俺は瞳を細め、そっと耳元に唇を寄せて囁く。
「お誕生日おめでとうございます、葵さん」
「…ん、ありがと」
笑みを含んだその声を聞き終わるよりも早く、唇を重ねた。
*********************
【BGM:EASY BREEZY(Song by UTADA)】
☆Happy birthday to Hina Sakazaki☆
もうずっと前から準備をしていた位なのだから、忘れるはずがない。
同室の静には軽く呆れられるほどの「忠犬」ならば
やっぱり
忠実なる僕としての愛情を示さなくては。
ガサガサと音を立てる紙袋を手に軽くノックをしてからドアを開ければ、そこには1人机に向かってパソコン入力をしている葵さんがいた。
辺りを見回すけれど、人がいる気配もなければ今し方出て行ったという様子もない。
「あやちゃん、どうしたの? 早く入ればいいのに」
くすくす笑って手招くその人の言葉に従い、ばつが悪く思いつつも素直に室内に足を踏み入れて扉を閉めた。
そうすると完全に他者のいる空間と切り離され、俺と葵さんだけの空間が出来上がる。
「夏目先輩は?」
「霞月は先生の所に資料提出に行ったよ。多分戻ってくるのは30分後じゃないかな? 旭ちゃんは今日7限まであるって言ってたし……しずかちゃんは…」
「ああ、弓道部に先に顔を出すとは言ってました」
「だよね」
にこりと笑ってまたパソコン画面に視線を戻してしまう。
少しだけ伏目がちになるその表情も好きだけれど、カタカタとキーボードを操る音を聞くのも実は好きだったりする。
はっきり言えば、この人の作る空間や音の全てが好きだ。
それが恋愛感情なのか、ただの憧れなのかはわからないけれど。
「葵さん」
「んー?」
「今日、誕生日ですよね、葵さんの」
作業中に話しかける事は滅多にしないけれど、今日だけは特別。
上の空のような声で返事を返したその人は、俺の続いて発した言葉に少しだけ驚いたような顔をしたけれど、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「嬉しいな。覚えててくれたんだね」
「忘れませんよ。去年だって覚えていたでしょう?」
「うん。でもほら、去年は数日前に霞月がその話題を持ち出したから…だから覚えてたのかなって思ってた」
「そこまで俺は薄情に見えますか?」
苦笑してそう尋ねれば、葵さんはパソコンのデータを保存するようにマウスを何度かクリックした後、「あやちゃんは優しいよ」と否定の言葉を告げてくれる。
どこまでも柔らかな笑顔を浮かべるその人との距離を詰めるために歩み寄れば、葵さんは椅子を回転させてパソコンから俺の方へと身体を向けてくれた。
「誕生日、おめでとうございます」
少しだけ緊張するのは、きっとこの人が本当にこのプレゼントを喜んでくれるか不安だから。
こんなのは俺らしくはない、と思うけれど。それでも声が震えなかっただけ誉めてやりたい位だ。
「ありがとう、あやちゃん」
手にしていた紙袋ごと差し出すと、葵さんはまたふわりと微笑んでそれを丁寧に受け取ってくれた。
「開けてもいい?」
「ええ、どうぞ」
そう言いつつも既に紙袋に手を差し込んでいる姿に吹きだしはしなかったものの、どうしても笑みが零れてしまう。
けれど葵さんはそんな俺の様子よりも、プレゼントの中身が気になるらしく、紙袋から取り出した少し大きい箱のリボンを解いていた。
男の割には細くて綺麗な指がリボンの端を摘んで引いていく動作を、やはり緊張しながら見つめる。
リボンという拘束を解かれ、剥き出しになった箱の蓋を開けた途端、葵さんは嬉しそうに声をあげた。
「うわぁ、フォンダンショコラ…! すごい美味しそう!」
甘い物が好きだという葵さんに用意したのは、フォンダンショコラ。
少し小さめのサイズを幾つか作り、潰れないように少し大きめの箱に入れてきたのだが、どうやら潰れる事もなく無事お披露目ができた事にホッとした。
けれど1番ホッとしたのは、嬉しそうな葵さんの顔。
「フォンダンショコラ、好きなんだよね。最近食べてなかったし……今食べてもいい?」
「ええ、もちろん」
やっぱり俺の返事の前に既に箱に手を伸ばして1つ手にとると、葵さんは口を開けてかじりつく。
作ってから大分冷めているから、中のチョコレートがトロトロと出てくる事はないのが少し残念だけれど、外の生地とは違う食感にはなっている。……はずだ。
「ん、美味しい…! これ、マーマレードが入ってる?」
「マーマレードが入っているのと、ビターと、あとオーソドックスなタイプを2つずつ作ってみたんです」
「え? あやちゃんの手作り?」
ショコラを頬張りながら、驚いたように俺を見つめてくる。
モゴモゴと口を動かしながら俺を見上げてくるのは、少し反則だと思う。
小動物みたいで思わず抱き締めたくなる。
その衝動を、この人にだけは発揮される理性を総動員して耐え、こくりと頷いた。
「はい」
「ほんとに?」
「ええ。………そんなに驚く事ですか?」
「だって、あやちゃん料理はしてもお菓子は作らないよね? しずかちゃんが作ったのなら何回か食べた事あるけど……」
「その静に教わって作ったんです。…本当はもうちょっと違うケーキとかも作ってみたかったんですが……」
そう。本当はもう少し凝ったものを作ってみたかった。
そのために1ヶ月も前から静に頼み込んでいたのだから。
けれど静のアドバイスに従い、比較的簡単なものをある程度の種類を揃えて、かつ、完璧に仕上げる事にしたのだ。
「……美味しくなかったですか?」
「ううん! 美味しいってさっきも言ったじゃない。すごく…本当にすごく美味しいよ。すごいね、あやちゃんっておかずとかの料理だけじゃなくて、お菓子もこんなに上手に作れちゃうんだ」
尊敬の眼差しを俺に向けつつ、手の中のフォンダンショコラをぺろりと胃の中に収めてしまう。
手についた粉砂糖を舐める仕草に思わずクラリとするけれど、それも何とか我慢した。
「美味しかったよ。残りは寮で頂くね。レンジで温めたら中のチョコ、ちゃんと溶けるよね」
「はい。あまりかけすぎないでくださいね?」
「わかってるよー?」
くすくす笑いながら、開いた箱を丁寧に戻していく。
踊るように動く指先をぼんやりと見つめていると、あっというまに箱にリボンがかかり、紙袋の中に舞い戻ってしまっていた。
それでもどうやら俺はまだぼんやりしていたようで、目の前に葵さんが手をかざすまで全く気付かなかった。
ああ、不覚…。
「本当にありがとうね、あやちゃん」
「いえ…喜んでもらえましたか?」
「もちろん! 寮に帰るのがすごく楽しみ」
「良かった」
満面の笑顔でそう言ってもらえると、作った甲斐がある。
フォンダンショコラだけじゃなく、甘いケーキが好きな事は知っていたけれど、それでも食べたくない時期だってあるだろう。その時期と被っていたら目も当てられなかった。
……とはいえ、この人が何を考え、どう思っているかがわかった事なんて今まで1度もない。
本当はあまり食べたくない気分だったとしても、俺を落ち込ませないようにきっと美味しそうに食べてくれた事だろう。
「……あーやちゃん?」
「はい?」
「ケーキのお礼、したいんだけど」
「え? でもこれは葵さんの誕生日プレゼントですから。お礼なんていりませんよ」
慌てて首を振る。
そういえばこの人は何かとお礼をしてくる。
嫌な訳じゃないけれど、お礼をもらっていいのだろうか、といつも思う。
今だってそうだ。と、いうより今の場合、本当にもらう必要はないだろう?
「僕がしたいの」
そう言われれば俺が断れない事を、この人は知っているに違いない。
そして本当に俺は断れないのだ。
戸惑いながらも「どんなお礼してくれるんですか?」と問えば、葵さんは少しだけ瞳を細めた。
本当に反則だ。
その表情は、どうしようもなく俺を誘うから。
「今日は、僕のお伺いを立てなくていいから。あやちゃんがしたい事を、僕にして」
緩く首を傾げながら囁くように告げられた言葉に、顔が赤くなりそうだ。
今まで滅多に聞いた事がない「究極のお許し」。
「……本当に?」
「うん」
「でも、それじゃ俺が葵さんにプレゼントした事以上のものがお礼になっちゃいますよ?」
「いいの。あやちゃんがしてくれる事って、僕へのプレゼントにもなるんじゃないかなーって思うんだけど…違う?」
ことり、と反対側に首を傾げて見上げてくる瞳は、相変わらず俺を誘う。
いつもは近寄りがたいほどに高潔なイメージのあるこの人が、こうして誰かを誘う時は途端に雰囲気が変わる。それはもう、性質が悪い位に。
きっと…わかってやっているのだろう。
この人は見た目よりもずっとずっと色んなものを見通している気がするから。
俺の願望も、欲望も、何もかも。
「葵、さん」
「ん?」
「本当にいいですか?」
「うん。いいよ」
にこりと笑いながら、ゆっくりと両腕を持ち上げてきたその人の身体を抱き寄せ、持ち上がった両腕を俺の首に回させる。
久しぶりに間近に感じるこの人の体温に、どうしようもなく身体が熱くなるけれど、今はまだ我慢。
吐息をかんじる位に近くなった顔に俺は瞳を細め、そっと耳元に唇を寄せて囁く。
「お誕生日おめでとうございます、葵さん」
「…ん、ありがと」
笑みを含んだその声を聞き終わるよりも早く、唇を重ねた。
*********************
【BGM:EASY BREEZY(Song by UTADA)】
☆Happy birthday to Hina Sakazaki☆
2006.09.22 Fri 00:39:03
ざわつく教室の中で、一際目立つ1つのグループ。
食堂で昼ご飯を食べ終え、残った昼休みの時間をクラスで過ごすためにダラダラとだべっているだけなのだが、どうにも目を引く。
「静、ジュースくれ」
「自分の飲め」
「ケチるなよ」
「人のをせびるお前にケチについて語られたくない」
「勝手に奪うぞ?」
「ちょ、危な…綾! 零れるっつの! 健一も見てないでこのバカ押さえろ!」
「あんまり暴れないでよー、机の上のお菓子が零れる」
「それだけか。それだけなのか!」
1つの小さな机を囲むように3人の男子生徒。
紙パックのジュースを飲んでいるセイに、それを奪おうとするリョウ、そんな2人をほのぼのと見やる健一。
その行為自体はどこででもある行為なのに、人目を引くのはその見た目。
綾(リョウ)と呼ばれた生徒は「目があったらヤられる」「兄弟の数は数知れず」とまことしやかな噂が流れるほど、ソノ手の魅力に溢れている。
ブルーグレーの瞳を細め、口端を持ち上げて笑う様など、どこぞの王様よりも偉そうなのだ。
趣味は「狩り」と豪語する位に手が早く、女性もイケるらしいが現在の環境が男子校という事もあってか最近は「野郎相手が多い」らしい。
静(セイ)と呼ばれた生徒は綾とは違い、言うなれば「クールビューティー」というのが1番わかりやすく、かつ、影でこっそりと静をそう呼んでいる者もいるとかいないとか。
ダークグリーンの少しだけつり上がった瞳は冷たい印象を与えるものの、綾の言動にツッコむ立場に立つ事が多く、苦労人に見えるためか、今だかつて「冷たいヤツ」と言われた事はない。
健一と呼ばれた生徒は少しだけ垂れているブラウン瞳と、いつも穏やかそうに笑っている印象が強いために、この3人の中で1番の常識人だと言われている。
どこか現実離れした言動と見た目をした綾と静に懐いている位だから、決して常識人ではない気がする……とも言われているのだがら、真相は3人のみぞ知る、といった所である。
とどのつまり、見た目が大変よろしいのだ。
だからこそ人目を集める事が多いが、この3人にとってそんなものはどうでもいいらしく……。
「だぁぁあ! 綾やめろって本当に零れる!」
「大丈夫だって零れたら俺が舐めてやるよ、丁寧に」
「そんな事されたら勃っちゃうじゃないか。午後の授業にでられなーい」
「安心しろよ。ちゃんとノートは取っといてくれるさ。健一が」
「清々しい昼休みの時間に淀んだ夜の空気は持ち込むなっていつも言ってるじゃん。ノートは取るけどね」
「ノートのお礼は俺が身体で返すよ。女じゃ経験できない気持ちよさを味あわせてやるぞ?」
「僕彼女いるから。あと綾も含めて男相手には勃たない」
「ついうっかりノった俺が悪かったが、健一…お前の発言も綾と大差なくなってるぞ」
昼間から下ネタ全開である。
そして会話からも察する事ができるように、綾と静は既に肉体関係を持っている。ただし付き合っている訳ではなく、曰く「セフレ」らしいのだが。
自宅が高校から遠いため、寮に入っている2人は都合よく同室であるがためにそれこそヤろうと思えば毎日でもヤれる。
健一も寮生活ではあるが、2人とは部屋も違うし学外に彼女がいるとかで、2人のその関係にまで付き合おうという事はない。
「とにかく、ジュース欲しいなら僕のあげるよ、綾」
「サーンキュ」
「……早くそうしてくれ。つーかテメェも調子に乗りすぎなんだよ」
「った! いってぇなー……静もノリノリだったくせに」
静のジュースを奪うはずが何故か服に手をかけ、元々緩んでいた制服のネクタイを更に緩め始めた綾に、健一が自分の飲んでいたジュースを差し出すと、綾はあっさりと静から手を離してジュースを受け取って飲み始める。
気付けばジュースではなく自分が獲物になっていた静は、ネクタイをきっちり締めなおし、ついでに止めていなかったボタンもがっちりと留めてから綾の頭を軽く叩いた。
恐ろしい事に日常的によくあるこの言動を、常に目の前で見ているからか、既に諦めているからか、はたまたそれを楽しんでいるのか…さっぱり読めない笑顔を浮かべながら健一は机の上のお菓子を食べている。
そのお菓子を口に入れようとした瞬間、3人の中で唯一教室の入り口に顔を向けていた健一は見知った顔が2つ、教室をのぞきこんでいる事に気付いた。
「ねぇねぇ」
「あ? 何だよ」
「綾のご主人様が来たよ。あと静の後輩君」
「はっ!?」
慌てて椅子から立ち上がって綾が背中を向けていた入り口へと顔を向けると、確かにそこには綾にとって崇拝対象でもある葵がひらひらと手を振っていた。
同じように静も振り返ってみれば、ひらひらと手を振る葵の隣でペコリと頭を下げる旭の姿を認め、軽く手を挙げて微笑む。
そうしている間にも、綾は素早い動きで葵の元へと走っていた。
「葵さん、何か用でもありましたか?」
「今日の生徒会会議なんだけど、顧問の職員会議の都合により前に言ってた時間から30分早くなっちゃうっていうのを伝えにきたんだ。本当は、あさひちゃんが顧問から伝言頼まれてたのを偶然僕が見てて、旭ちゃんにくっついてきただけ」
「わざわざありがとうございます」
「ううん。単にこっちに来たかっただけなんだ。ここってあやちゃんのクラスだっけ? 去年は僕もこのクラスだったから懐かしくって」
そう言ってふわりと微笑む葵に、綾は眩しいものを見るように瞳を細めると「そうでしたね」と頷く。
綾にとって、葵は憧れというにはあまりにも強烈な存在である。
この高校に入学した時、既に生徒会に入っていた葵を入学式の時に見て一目で虜になった。
いつもはどこか不遜な態度の綾も葵の前では従順な犬のようになるし、「葵がいるから」という理由だけで生徒会に入った位にどこまでも従っている。
それは葵にだけ許している「あや」という名前の呼び方にも忠実に表れており、葵以外の人間が「あや」と呼ぶと一気に機嫌が悪くなるのだ。
そして綾をそれだけ夢中にさせる葵もまた、見目が麗しい。
「学園のアイドル」と呼ばれ、影では抜け駆けがないように不可侵条約すら結ばれているという徹底振りからも人気の高さが窺える。
「葵さん、わざわざありがとうございます。旭もサンキュ。もしかして俺のクラスまで見に行ってくれた?」
「はい。でもいらっしゃらなかったから、ここかな、って」
静が軽く葵に会釈をしてから、小柄な葵よりももう少し身長の低い旭に視線を落としてくしゃりを髪の毛を撫でる。
色素が薄く、柔らかな髪は指通りも滑らかで静はよく旭を髪をなで、旭もまた髪を撫でられる事を甘受していた。
旭も葵同様、アイドル的な容姿をしているため、密かにファンがいる。
どこか高潔で近寄りがたい雰囲気のある葵とは対照的に、若干人見知り傾向にあるものの人懐っこい顔を浮かべる旭は良くも悪くも声をかけやすく、親しみをもたれやすいアイドルタイプなのだ。
中学からの付き合いである静にとって、どこか危なっかしい旭は庇護欲が刺激され、旭はいつも何かを構ってくれる静は1番安心して頼れる存在となっている。
「でもここに来るのは誰かと一緒じゃないとダメだ。とんでもないセクハラ男がいるから」
「待て、静。それは俺のことか」
「何だ、自覚があって何よりだ」
「手当たり次第じゃない。ちゃんと選んでる」
「ほっほーぅ俺はてっきり手当たり次第かと」
優しく頭を撫でながら静の言った言葉に、葵と会話をしていた綾がピクリと反応して絡んできた。
軽く睨みつけるような仕草の割には明らかに面白がっていて、静もまたニヤニヤと笑って応酬してきた。
おろおろと2人の会話を聞くしかない旭とは違い、葵は少しだけ困ったように笑顔を浮かべる。
「あやちゃん、人の嫌がる事だけはしちゃ駄目だからね?」
「……はい」
「しずかちゃんも、からかうかたしなめるかどっちかにしなきゃ」
「はい」
「ん。イイコイイコ」
絶対的な「主」である葵にやんわりと窘められた綾は殊勝な様子で頷き、静もまた苦笑しながらも返事をした。
そんな2人に、葵はご褒美というように頭を撫で、綾にはオマケで頬も優しく撫でてから隣の旭に目をやる。
「じゃあいこっか。教室まで送るよ、あさひちゃん」
「えっ!? い、いいですよちゃんと帰れますし」
「いいからいいから。先輩の言う事はちゃんと聞く事~。じゃあね、あやちゃん、しずかちゃん」
「はい。また放課後」
恐縮しきっている旭の手を握り、のほほんとした口調と笑顔を浮かべながら軽く手を振って去っていく葵に、綾は律儀に軽く頭を下げ、2人の……というより葵の姿が見えなくなるまで見送るつもりなのか、ずっと廊下を見ていた。
そんな綾は放っておき、静は一度会釈をしてすぐに健一の下に戻る。
「おかえりー」
「ただいま。ってお前ほとんど食ったのか……まぁいいけど」
「ちゃんと2人分は残ってるじゃん」
「そらどうもー」
確かに2つの小さなお菓子の山が出来ていて、綾と静の分なのだろうというのは予想がつく。
その山の1つに手をつけ、口に咥えながらちらりと未だに教室の入り口に立っている綾を見やった。
「……相変わらずの忠犬ぶりだなーアイツ」
「今に始まった事じゃないよ。大体生徒会室じゃもっとすごいんじゃないの」
「まあな」
口にお菓子を咥えたままモゴモゴと話す静に、健一は少しだけ首を傾げる。
「…………あんまり気にしなくていいんじゃない」
「何が」
「色々」
「はぁ…?」
ぽつりと呟かれたアドバイスのような、そうではないような言葉に静は首を傾げる。
けれどそれ以上健一は何も言おうとせず、モリモリとお菓子を食べる事に専念してしまった。
そこに見送りを終えた綾が戻ってくる。
「ただいまーっす」
「おかえろー」
「エロエロー」
「お前等その挨拶は俺への挑戦か? 犯して欲しいのか?」
「やっだー犯すだなんてげひーん」
「お菓子ならほしーい」
「よーしとりあえず静は今晩覚悟しとけよ啼かすだけじゃなくて泣かしてやる」
口端を持ち上げてにやりと笑いながら空いている椅子に座り、お菓子を食べ始めた綾に健一は「ほどほどにね」と思いやりがあるようなないような言葉をかけたのだった。
***********************
【BGM:青春デイズ(Song by 平井堅)】
終わり方が適当とかぐだぐだすぎる中身とか、言われなくてもわかってるからツッコまないでくれ…。
食堂で昼ご飯を食べ終え、残った昼休みの時間をクラスで過ごすためにダラダラとだべっているだけなのだが、どうにも目を引く。
「静、ジュースくれ」
「自分の飲め」
「ケチるなよ」
「人のをせびるお前にケチについて語られたくない」
「勝手に奪うぞ?」
「ちょ、危な…綾! 零れるっつの! 健一も見てないでこのバカ押さえろ!」
「あんまり暴れないでよー、机の上のお菓子が零れる」
「それだけか。それだけなのか!」
1つの小さな机を囲むように3人の男子生徒。
紙パックのジュースを飲んでいるセイに、それを奪おうとするリョウ、そんな2人をほのぼのと見やる健一。
その行為自体はどこででもある行為なのに、人目を引くのはその見た目。
綾(リョウ)と呼ばれた生徒は「目があったらヤられる」「兄弟の数は数知れず」とまことしやかな噂が流れるほど、ソノ手の魅力に溢れている。
ブルーグレーの瞳を細め、口端を持ち上げて笑う様など、どこぞの王様よりも偉そうなのだ。
趣味は「狩り」と豪語する位に手が早く、女性もイケるらしいが現在の環境が男子校という事もあってか最近は「野郎相手が多い」らしい。
静(セイ)と呼ばれた生徒は綾とは違い、言うなれば「クールビューティー」というのが1番わかりやすく、かつ、影でこっそりと静をそう呼んでいる者もいるとかいないとか。
ダークグリーンの少しだけつり上がった瞳は冷たい印象を与えるものの、綾の言動にツッコむ立場に立つ事が多く、苦労人に見えるためか、今だかつて「冷たいヤツ」と言われた事はない。
健一と呼ばれた生徒は少しだけ垂れているブラウン瞳と、いつも穏やかそうに笑っている印象が強いために、この3人の中で1番の常識人だと言われている。
どこか現実離れした言動と見た目をした綾と静に懐いている位だから、決して常識人ではない気がする……とも言われているのだがら、真相は3人のみぞ知る、といった所である。
とどのつまり、見た目が大変よろしいのだ。
だからこそ人目を集める事が多いが、この3人にとってそんなものはどうでもいいらしく……。
「だぁぁあ! 綾やめろって本当に零れる!」
「大丈夫だって零れたら俺が舐めてやるよ、丁寧に」
「そんな事されたら勃っちゃうじゃないか。午後の授業にでられなーい」
「安心しろよ。ちゃんとノートは取っといてくれるさ。健一が」
「清々しい昼休みの時間に淀んだ夜の空気は持ち込むなっていつも言ってるじゃん。ノートは取るけどね」
「ノートのお礼は俺が身体で返すよ。女じゃ経験できない気持ちよさを味あわせてやるぞ?」
「僕彼女いるから。あと綾も含めて男相手には勃たない」
「ついうっかりノった俺が悪かったが、健一…お前の発言も綾と大差なくなってるぞ」
昼間から下ネタ全開である。
そして会話からも察する事ができるように、綾と静は既に肉体関係を持っている。ただし付き合っている訳ではなく、曰く「セフレ」らしいのだが。
自宅が高校から遠いため、寮に入っている2人は都合よく同室であるがためにそれこそヤろうと思えば毎日でもヤれる。
健一も寮生活ではあるが、2人とは部屋も違うし学外に彼女がいるとかで、2人のその関係にまで付き合おうという事はない。
「とにかく、ジュース欲しいなら僕のあげるよ、綾」
「サーンキュ」
「……早くそうしてくれ。つーかテメェも調子に乗りすぎなんだよ」
「った! いってぇなー……静もノリノリだったくせに」
静のジュースを奪うはずが何故か服に手をかけ、元々緩んでいた制服のネクタイを更に緩め始めた綾に、健一が自分の飲んでいたジュースを差し出すと、綾はあっさりと静から手を離してジュースを受け取って飲み始める。
気付けばジュースではなく自分が獲物になっていた静は、ネクタイをきっちり締めなおし、ついでに止めていなかったボタンもがっちりと留めてから綾の頭を軽く叩いた。
恐ろしい事に日常的によくあるこの言動を、常に目の前で見ているからか、既に諦めているからか、はたまたそれを楽しんでいるのか…さっぱり読めない笑顔を浮かべながら健一は机の上のお菓子を食べている。
そのお菓子を口に入れようとした瞬間、3人の中で唯一教室の入り口に顔を向けていた健一は見知った顔が2つ、教室をのぞきこんでいる事に気付いた。
「ねぇねぇ」
「あ? 何だよ」
「綾のご主人様が来たよ。あと静の後輩君」
「はっ!?」
慌てて椅子から立ち上がって綾が背中を向けていた入り口へと顔を向けると、確かにそこには綾にとって崇拝対象でもある葵がひらひらと手を振っていた。
同じように静も振り返ってみれば、ひらひらと手を振る葵の隣でペコリと頭を下げる旭の姿を認め、軽く手を挙げて微笑む。
そうしている間にも、綾は素早い動きで葵の元へと走っていた。
「葵さん、何か用でもありましたか?」
「今日の生徒会会議なんだけど、顧問の職員会議の都合により前に言ってた時間から30分早くなっちゃうっていうのを伝えにきたんだ。本当は、あさひちゃんが顧問から伝言頼まれてたのを偶然僕が見てて、旭ちゃんにくっついてきただけ」
「わざわざありがとうございます」
「ううん。単にこっちに来たかっただけなんだ。ここってあやちゃんのクラスだっけ? 去年は僕もこのクラスだったから懐かしくって」
そう言ってふわりと微笑む葵に、綾は眩しいものを見るように瞳を細めると「そうでしたね」と頷く。
綾にとって、葵は憧れというにはあまりにも強烈な存在である。
この高校に入学した時、既に生徒会に入っていた葵を入学式の時に見て一目で虜になった。
いつもはどこか不遜な態度の綾も葵の前では従順な犬のようになるし、「葵がいるから」という理由だけで生徒会に入った位にどこまでも従っている。
それは葵にだけ許している「あや」という名前の呼び方にも忠実に表れており、葵以外の人間が「あや」と呼ぶと一気に機嫌が悪くなるのだ。
そして綾をそれだけ夢中にさせる葵もまた、見目が麗しい。
「学園のアイドル」と呼ばれ、影では抜け駆けがないように不可侵条約すら結ばれているという徹底振りからも人気の高さが窺える。
「葵さん、わざわざありがとうございます。旭もサンキュ。もしかして俺のクラスまで見に行ってくれた?」
「はい。でもいらっしゃらなかったから、ここかな、って」
静が軽く葵に会釈をしてから、小柄な葵よりももう少し身長の低い旭に視線を落としてくしゃりを髪の毛を撫でる。
色素が薄く、柔らかな髪は指通りも滑らかで静はよく旭を髪をなで、旭もまた髪を撫でられる事を甘受していた。
旭も葵同様、アイドル的な容姿をしているため、密かにファンがいる。
どこか高潔で近寄りがたい雰囲気のある葵とは対照的に、若干人見知り傾向にあるものの人懐っこい顔を浮かべる旭は良くも悪くも声をかけやすく、親しみをもたれやすいアイドルタイプなのだ。
中学からの付き合いである静にとって、どこか危なっかしい旭は庇護欲が刺激され、旭はいつも何かを構ってくれる静は1番安心して頼れる存在となっている。
「でもここに来るのは誰かと一緒じゃないとダメだ。とんでもないセクハラ男がいるから」
「待て、静。それは俺のことか」
「何だ、自覚があって何よりだ」
「手当たり次第じゃない。ちゃんと選んでる」
「ほっほーぅ俺はてっきり手当たり次第かと」
優しく頭を撫でながら静の言った言葉に、葵と会話をしていた綾がピクリと反応して絡んできた。
軽く睨みつけるような仕草の割には明らかに面白がっていて、静もまたニヤニヤと笑って応酬してきた。
おろおろと2人の会話を聞くしかない旭とは違い、葵は少しだけ困ったように笑顔を浮かべる。
「あやちゃん、人の嫌がる事だけはしちゃ駄目だからね?」
「……はい」
「しずかちゃんも、からかうかたしなめるかどっちかにしなきゃ」
「はい」
「ん。イイコイイコ」
絶対的な「主」である葵にやんわりと窘められた綾は殊勝な様子で頷き、静もまた苦笑しながらも返事をした。
そんな2人に、葵はご褒美というように頭を撫で、綾にはオマケで頬も優しく撫でてから隣の旭に目をやる。
「じゃあいこっか。教室まで送るよ、あさひちゃん」
「えっ!? い、いいですよちゃんと帰れますし」
「いいからいいから。先輩の言う事はちゃんと聞く事~。じゃあね、あやちゃん、しずかちゃん」
「はい。また放課後」
恐縮しきっている旭の手を握り、のほほんとした口調と笑顔を浮かべながら軽く手を振って去っていく葵に、綾は律儀に軽く頭を下げ、2人の……というより葵の姿が見えなくなるまで見送るつもりなのか、ずっと廊下を見ていた。
そんな綾は放っておき、静は一度会釈をしてすぐに健一の下に戻る。
「おかえりー」
「ただいま。ってお前ほとんど食ったのか……まぁいいけど」
「ちゃんと2人分は残ってるじゃん」
「そらどうもー」
確かに2つの小さなお菓子の山が出来ていて、綾と静の分なのだろうというのは予想がつく。
その山の1つに手をつけ、口に咥えながらちらりと未だに教室の入り口に立っている綾を見やった。
「……相変わらずの忠犬ぶりだなーアイツ」
「今に始まった事じゃないよ。大体生徒会室じゃもっとすごいんじゃないの」
「まあな」
口にお菓子を咥えたままモゴモゴと話す静に、健一は少しだけ首を傾げる。
「…………あんまり気にしなくていいんじゃない」
「何が」
「色々」
「はぁ…?」
ぽつりと呟かれたアドバイスのような、そうではないような言葉に静は首を傾げる。
けれどそれ以上健一は何も言おうとせず、モリモリとお菓子を食べる事に専念してしまった。
そこに見送りを終えた綾が戻ってくる。
「ただいまーっす」
「おかえろー」
「エロエロー」
「お前等その挨拶は俺への挑戦か? 犯して欲しいのか?」
「やっだー犯すだなんてげひーん」
「お菓子ならほしーい」
「よーしとりあえず静は今晩覚悟しとけよ啼かすだけじゃなくて泣かしてやる」
口端を持ち上げてにやりと笑いながら空いている椅子に座り、お菓子を食べ始めた綾に健一は「ほどほどにね」と思いやりがあるようなないような言葉をかけたのだった。
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【BGM:青春デイズ(Song by 平井堅)】
終わり方が適当とかぐだぐだすぎる中身とか、言われなくてもわかってるからツッコまないでくれ…。
2006.09.22 Fri 00:36:43
【大和綾(ヤマト リョウ)】
・高2(D組)のオールマイティな攻め。
・生徒会副会長。
・「あや」と呼ばれる事を嫌うが、葵にだけは許している。
・寮の部屋が静と同室でセフレ関係。
・葵にだけは素直で下僕スイッチが入るが、それ以外にはドS全開。
・たまに静相手に受ける事があるものの、基本的には攻め。
・比較的器用で、簡易キッチン等で料理を作る事がある。
・ただしお菓子は「分量を量るのが面倒」だから作らない。

【皆戸静(ミナト セイ)】
・高2(A組)の限りなく受に近いリバ。
・生徒会書記で、弓道部にも所属。
・「しずか」と呼ばれる事が嫌い。でも葵には反論できない。
・寮の部屋が綾と同室でセフレ関係。
・旭にでさえ攻める事ができずへこんだりするが、時々綾に攻める事がある。
・お菓子作りが得意でよく旭に作ってあげている。

【石田健一(イシダ ケンイチ)】
・高2(C組)でノンケ(彼女もち)。
・バスケットボール部所属。
・綾と静の友達で2人によく懐く天然系。
・色々と観察眼が鋭く、静の複雑な心境を察して時々さりげなく慰めている。
・ただし普段は温い目でそれぞれの人間関係を見つめている。

【咲坂葵(サキサカ アオイ)】
・高3(C組)で学園のアイドル。
・生徒会会計。
・いつもにこにこと笑っているが、本心までは覗けない。
・寮の部屋が霞月と同室で親友。
・綾を「あやちゃん」、静を「しずかちゃん」、旭を「あさひちゃん」とちゃん付け呼び。

【遠江旭(トオエ アサヒ)】
・高1(C組)で総受。
・生徒会庶務。
・寮の部屋が依弦と同室。
・中学の先輩だった静の事が好きだが、言い出せていない。
・人見知りが激しく、よく綾にからかわれたりしているが静に庇われている。
・祐が所属している剣道部へよく見学には行くが、入部はしないらしい。
【夏目霞月(ナツメ カヅキ)】
・高3(A組)でノンケ。
・寮長で生徒会長。
・寮の部屋は葵と同室で親友。
・主に綾の言動や周囲の反応に若干胃痛を感じている苦労人。
・根が真面目なだけに時々周囲に振り回され疲れる事もあるが、面倒見のいい典型的先輩タイプ。

【朝比奈真(アサヒナ マコト)】
・高3(C組)で受け。
・弓道部所属。
・依弦と恋人同士で、受けてはいるが実権を握っている。
・冗談で綾が誘ってくるのを上手く乗って返す(そして時々ソレを依弦に見せてからかう)。

【瀧依弦(タキ イヅル)】
・高1(C組)で攻め。
・剣道部所属。
・寮の部屋は旭と同室。
・真と恋人同士だが、攻めてる割には立場が弱い(精神的に受)。
・やんちゃ系の仔犬属性。
・結構綾にからかわれる事が多い。
【大河内祐(オオコウチ ユウ)】
・高1(C組)で彼女持ちのノンケ。
・剣道部所属。
・このメンバーの中で唯一の自宅通学生。
・よく綾に「ヤらない?」と言われるが「彼女いるから」と断る。
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イラスト・設定協力は立花しえさんです。
・高2(D組)のオールマイティな攻め。
・生徒会副会長。
・「あや」と呼ばれる事を嫌うが、葵にだけは許している。
・寮の部屋が静と同室でセフレ関係。
・葵にだけは素直で下僕スイッチが入るが、それ以外にはドS全開。
・たまに静相手に受ける事があるものの、基本的には攻め。
・比較的器用で、簡易キッチン等で料理を作る事がある。
・ただしお菓子は「分量を量るのが面倒」だから作らない。

【皆戸静(ミナト セイ)】
・高2(A組)の限りなく受に近いリバ。
・生徒会書記で、弓道部にも所属。
・「しずか」と呼ばれる事が嫌い。でも葵には反論できない。
・寮の部屋が綾と同室でセフレ関係。
・旭にでさえ攻める事ができずへこんだりするが、時々綾に攻める事がある。
・お菓子作りが得意でよく旭に作ってあげている。

【石田健一(イシダ ケンイチ)】
・高2(C組)でノンケ(彼女もち)。
・バスケットボール部所属。
・綾と静の友達で2人によく懐く天然系。
・色々と観察眼が鋭く、静の複雑な心境を察して時々さりげなく慰めている。
・ただし普段は温い目でそれぞれの人間関係を見つめている。

【咲坂葵(サキサカ アオイ)】
・高3(C組)で学園のアイドル。
・生徒会会計。
・いつもにこにこと笑っているが、本心までは覗けない。
・寮の部屋が霞月と同室で親友。
・綾を「あやちゃん」、静を「しずかちゃん」、旭を「あさひちゃん」とちゃん付け呼び。

【遠江旭(トオエ アサヒ)】
・高1(C組)で総受。
・生徒会庶務。
・寮の部屋が依弦と同室。
・中学の先輩だった静の事が好きだが、言い出せていない。
・人見知りが激しく、よく綾にからかわれたりしているが静に庇われている。
・祐が所属している剣道部へよく見学には行くが、入部はしないらしい。
【夏目霞月(ナツメ カヅキ)】
・高3(A組)でノンケ。
・寮長で生徒会長。
・寮の部屋は葵と同室で親友。
・主に綾の言動や周囲の反応に若干胃痛を感じている苦労人。
・根が真面目なだけに時々周囲に振り回され疲れる事もあるが、面倒見のいい典型的先輩タイプ。
【朝比奈真(アサヒナ マコト)】
・高3(C組)で受け。
・弓道部所属。
・依弦と恋人同士で、受けてはいるが実権を握っている。
・冗談で綾が誘ってくるのを上手く乗って返す(そして時々ソレを依弦に見せてからかう)。
【瀧依弦(タキ イヅル)】
・高1(C組)で攻め。
・剣道部所属。
・寮の部屋は旭と同室。
・真と恋人同士だが、攻めてる割には立場が弱い(精神的に受)。
・やんちゃ系の仔犬属性。
・結構綾にからかわれる事が多い。
【大河内祐(オオコウチ ユウ)】
・高1(C組)で彼女持ちのノンケ。
・剣道部所属。
・このメンバーの中で唯一の自宅通学生。
・よく綾に「ヤらない?」と言われるが「彼女いるから」と断る。
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イラスト・設定協力は立花しえさんです。
2006.05.29 Mon 09:55:53
つきつけられた銃口は震えていて
引き金にかけられた白い指は血が通っていないかのようで
きっと触れれば冷たいのだろうと他人事のように思う
今にも泣き出しそうに歪んでいる相手は、自分と同じ顔。
俗に言う双子として育った僕ら
考え方も好みも見た目も何もかもがそっくりの僕ら
なのに、僕が「抗う」事を知ってから道は分かれた。
従う兄
抗った僕
諦めた兄と諦めきれない僕の違いはどこから生まれたんだろう、なんて。
そんなのもう考える事も思い出そうとする事もなくなって久しくて
ただ僕は兄から、自分を取り巻いた全ての鎖を断ち切った。
それだけ。
そして兄に見つかり、銃口を突きつけられている。
ただそれだけ。
「殺さないの?」
「……」
「殺せって言われたんでしょう?」
動かない兄の指。
なのに瞳だけはゆらゆらと陽炎のように揺れていた。
「もう満足した。抗える事を知った。ちょっと……兄さんに見つかってしくじっちゃったけどさ。兄さんがいなかったら僕は絶対に逃げ出せたよ」
あぁ、でも誤解しないで
「兄さんがいなきゃ良かったなんて1度も思った事ない。今だってそうだよ。僕を見つけたのが兄さんで良かった。兄さん以外に見つかる位なら自分で死ぬ方がマシ」
だから。
「いいよ。僕は抗った。指し示された道とは違う道を、僕は少しだけだけど歩けたんだ。だからもういい」
用意された道とは違う道は苦しくて辛くて痛くて。
でも楽しかった。
とても、とても。
「兄さんは従う人だった。僕は抗う人だった。ただ…それだけだよ」
にこりと笑えば、同じ顔をした兄の顔が一層歪んだ。
できれば笑って欲しいな、なんて思ったけれどその分自分が笑えばいい。
「サヨナラ、兄さん」
木霊する銃声。
同じ顔と同じ体躯をした存在が、少しでも苦しまないようにと銃弾は急所を貫いた。
最後の最後まで笑っていた弟の崩れ落ちていく身体が、次第にぼやけていく。
泣いているのだと気付いたのは、耳に残り続ける銃声が消える頃だった。
******************************
【BGM:Southern Cross(Song by403)】
引き金にかけられた白い指は血が通っていないかのようで
きっと触れれば冷たいのだろうと他人事のように思う
今にも泣き出しそうに歪んでいる相手は、自分と同じ顔。
俗に言う双子として育った僕ら
考え方も好みも見た目も何もかもがそっくりの僕ら
なのに、僕が「抗う」事を知ってから道は分かれた。
従う兄
抗った僕
諦めた兄と諦めきれない僕の違いはどこから生まれたんだろう、なんて。
そんなのもう考える事も思い出そうとする事もなくなって久しくて
ただ僕は兄から、自分を取り巻いた全ての鎖を断ち切った。
それだけ。
そして兄に見つかり、銃口を突きつけられている。
ただそれだけ。
「殺さないの?」
「……」
「殺せって言われたんでしょう?」
動かない兄の指。
なのに瞳だけはゆらゆらと陽炎のように揺れていた。
「もう満足した。抗える事を知った。ちょっと……兄さんに見つかってしくじっちゃったけどさ。兄さんがいなかったら僕は絶対に逃げ出せたよ」
あぁ、でも誤解しないで
「兄さんがいなきゃ良かったなんて1度も思った事ない。今だってそうだよ。僕を見つけたのが兄さんで良かった。兄さん以外に見つかる位なら自分で死ぬ方がマシ」
だから。
「いいよ。僕は抗った。指し示された道とは違う道を、僕は少しだけだけど歩けたんだ。だからもういい」
用意された道とは違う道は苦しくて辛くて痛くて。
でも楽しかった。
とても、とても。
「兄さんは従う人だった。僕は抗う人だった。ただ…それだけだよ」
にこりと笑えば、同じ顔をした兄の顔が一層歪んだ。
できれば笑って欲しいな、なんて思ったけれどその分自分が笑えばいい。
「サヨナラ、兄さん」
木霊する銃声。
同じ顔と同じ体躯をした存在が、少しでも苦しまないようにと銃弾は急所を貫いた。
最後の最後まで笑っていた弟の崩れ落ちていく身体が、次第にぼやけていく。
泣いているのだと気付いたのは、耳に残り続ける銃声が消える頃だった。
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【BGM:Southern Cross(Song by403)】