ブログ内検索
必読事項
・この日記ではオリジナルのSSや、時折二次創作のSSが書き連ねてあります。苦手な方・興味のない方は見なかった事にしてご退場下さい。
・二次創作物(特定ジャンルなしにつき、その都度要確認)は、出版社・原作者とは一切関係がございません。また、各公式サイトへの同じ窓で移動は厳禁ですのでどうぞご了承下さい。
・この日記に存在する全てのSSはイチエのものであり、転載・複製は禁止です。
・リンク等につきましては、お手数ですが一度メール(ichie_1516@hotmail.com @→@)にてご連絡下さい。
携帯日記。
写メした画像を随時更新。限りなく不定期。 カーソルを記事に合わせると日記の文章が表示されます(クリックすると日記のページに飛べます)。
・二次創作物(特定ジャンルなしにつき、その都度要確認)は、出版社・原作者とは一切関係がございません。また、各公式サイトへの同じ窓で移動は厳禁ですのでどうぞご了承下さい。
・この日記に存在する全てのSSはイチエのものであり、転載・複製は禁止です。
・リンク等につきましては、お手数ですが一度メール(ichie_1516@hotmail.com @→@)にてご連絡下さい。
携帯日記。
写メした画像を随時更新。限りなく不定期。 カーソルを記事に合わせると日記の文章が表示されます(クリックすると日記のページに飛べます)。
カテゴリー
アーカイブ
最新記事
(06/01)
(05/25)
(05/17)
(05/16)
(05/11)
アクセス解析
リンク
プロフィール
HN:イチエ
mail:ichie_1516@hotmail.com(@→@)
2025.04.17 Thu 06:24:47
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2005.09.04 Sun 09:52:15
誰もが天使は清く、悪魔は穢れていると言う。
特に天使は「白」く、悪魔は「黒」だなどと戯言を言う。
そんな事はない。
実際は天使であっても黒い翼を持ち、悪魔であっても白い翼を持つ者だっている。
だからこそ、リーアは色で区別をしようとする人間を心の中で嘲っていた。
リーアの翼の色は天使の属性にありながらも黒い。
しかし周囲はその事について何ら揶揄する言葉をかけない。
なぜなら、リーアの背中の翼は4枚の翼がついている。
翼の枚数が多ければ多いほど力が強いのは、誰もが知っている世の理。
それにのっとれば、大概の天使はリーアの力を恐れて何も言わずにただ媚びへつらった。
それを見るたび、リーアはにこりと笑みを浮かべて聞き流す。
心の中であれこれと皮肉の言葉を並べ立てながら。
白ければ清い。黒ければ穢れ。
なんとも滑稽な線引き。
白い者が黒くないなどと、誰にわかるというのか。
黒い者が白くないなどと、どうしてわかるのか。
どうして白こそが天使だというなら、万能なる神は、我らが父は――――――。
「……ほんと、ふざけんじゃないわよ」
「厳しいな、リーアは」
「ルゥ!」
当てもなくぶらぶらと美しく手入れのされている庭園を歩いていたリーアに、背後から声がかかる。
耳によくなじみ、誰よりも愛しいその声にリーアは満面の笑みを浮かべて振り返った。
そこにいたのは想像していた通りの人。
リーアとは違って真っ白い翼を、それも6枚背中から優雅に広げているルゥ。
けれど艶やかな髪も、優しげな双眸も、リーアの翼と同じ漆黒の色をしていて、それに触れるのも見つめられるのもリーアは好きだった。
「また何か言われたのか?」
「顔を合わせる度に。うるさいったらないわ。私の翼の色と枚数がよほど気に入らないのね」
「はは……。仕方ないさ。実際天使長の座についた者で、黒い翼だった者はいないのだから」
「だったら白い翼の中から選べばいいのよ」
「それもできないってわかってるだろう? 賢い私のリーア」
そっと腕の中に包まれ、囁くように言われる。
たったそれだけで苛々していた気持ちが治まった気がした。
広い胸に頬を摺り寄せ、リーアは甘えるように上目使いでルゥを見上げる。
「わかってる。今白い翼で4枚以上持ってる人間は既に天使長の座についてて、私しか空座を埋める4枚羽根はいないんですもの。……だったら今更アレコレと言ってくるのは筋違いよ」
「そう言ってやらないでくれ。彼らも必死なんだよ。近頃…あまりいい空気が漂っていないから」
「う、ん……」
苦笑交じりにルゥに言われると、それだけでリーアは大人しくなった。
そしてルゥの言葉に眉を寄せる。
実際、今天使たちの住まう天界はあまりいい状態ではない。
万能なる我らが父の力が弱まるこの時期を察知し、魔界がじわりじわりと攻勢を仕掛けているのだ。
他の天使長は全てその守護や警備にあたっていて、天界の中心地である城に残っているのは、大天使長であるルゥと、その補佐に選ばれているリーアだけだった。
皆が噂する。
父は我らを見捨てるのか
バカな事を言うな!
しかし現に父は我らの危機を見過ごしておられる!
そういう事を軽軽しく言うものではない!
ならば何故我らが父は何も言ってくださらぬのか!
えぇい黙れ! そう言う戯言こそが我らの結束を乱すのだ!
くだらない、とリーアはいつも鼻でせせら笑うやりとり。
我らが父を信じる者と、信じたいと思いながらも疑惑を覚える者。
我ら天使にとって、「信じる」という行為は何よりも大切になる。
「神を信じる」からこそ、存在を許されていると言っても過言ではない。
「神を信じる行為をやめる」「神を裏切る行為」―――――それはすなわち『堕天』となるのだ。
だからこそ常に天使は万能なる父を崇め、恐れ、信じる。
そうする事で己を律し、存在し続ける。
けれど…。
「どうした、リーア?」
「ルゥ…」
「いいよ。何でも言ってごらん?」
言うべきかどうか迷うリーアの心のうちを汲み取り、優しい笑みを浮かべてリーアの柔らかなウェーブがかった亜麻色の髪を梳く。
腰まで届くほどの長い髪は無造作に背中に流しているから、風が吹くたびにゆらゆらと揺れる度にルゥが「リーアの髪は綺麗だね」と誉めてくれるから、リーアも己の髪が好きだった。
「私は……父が何をお考えなのかわからない」
「……そう」
「今の状況が父のせいだとは思わないし、そうではないってわかってる。でも…父の影響力がなくなったのは事実で、そのせいで口さがない者が増えてるのも事実」
「そうだね」
「それに……」
「それに?」
「……どうして、どうして父は…白い者を好むというのに、天使に黒い羽根という存在を生み出されたのかわからない。今、黒い羽根の天使が増えてるのは、父の影響力が薄れたせいなの?」
リーアの言葉に、ルゥは悲しげな表情を浮かべた。
大天使長たる彼は、いわば「神」に最も近い存在なのだから、今のリーアの言葉は辛かったかもしれない……そう思い至ってリーアは謝罪の言葉を紡ごうとするが、それよりも早くルゥが口を開いた。
「リーアは…白ければ清く、黒ければ穢れていると思うのかい?」
「いいえ」
「そう言うと思った」
くすりと笑みを浮かべ、額に口付けを1つ落としてくれる。
より一層身体を密着させるように抱きしめられ、リーアはほんのりと頬を染めつつもルゥの首に腕を回した。
「もし黒が穢れだというなら、リーアは穢れている事になるからね。でもそんな事はないっていうのは、私が一番よくわかってる」
「ん…ありがとうルゥ」
「それに」
ルゥが密やかに何かを呟こうとした瞬間、強い風が吹き抜けた。
まるで意図的に、それこそ「神」が吹かせたのではないかと思うほどに強い風の音は、ルゥの言の葉を完全に浚っていった。
「何? 今何て言ったのルゥ。こんなに近くにいたのに……」
全然聞こえなかった、と続けようとした言葉だが、胸に埋めていた顔をあげてルゥの顔を覗き込む事で見えたルゥの顔が、思いの外険しかった事に驚いて思わず飲み込んでしまう。
けれどリーアの視線に気づいたルゥはすぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべて「大したことじゃないから、気にしなくていいよ」と額に、頬に口付けを落とす。
それを嬉しく思いながら受け止める反面、ルゥの聞けなかった言葉が胸に小さな棘を残した。
その棘は
1つの予兆
この後に起こる惨劇の
前触れに過ぎなかった。
ある日ルゥは天界の中心である城を攻撃した。
全ての天使長が天界の隅にて警備にあたっている隙をついての出来事。
6枚羽根を有するルゥのその暴走を止めることができる者はおらず、敢えて言うならば補佐をしていたリーア位しかいない。
城の中心部にある聖堂で2人は逢い見える。
ルゥの真っ白い翼はたくさんの返り血を浴びて真紅に染まっている。
リーアはそれすらも美しいと、思わず見惚れた。
そんなリーアに、ルゥは相変わらず優しい笑みを浮かべて声をかける。
「やぁ。私をとめにくるのはリーアしかいないと思っていた」
「そうね。他に天使長クラスの者はいないから。戻るにしても3日はかかるでしょうね」
「そうだね。だからこそ、今日という日を選んだのだけれど」
にこりと笑って緩く首を傾げるルゥ。
リーアはいつもと変わらない笑みを浮かべているルゥを見つめながら同じように首を傾げた。
「どうして、こんな事を?」
「わからないんだ、私も」
「え?」
「ただ、衝動のままに。何かに突き動かされたんだ。自分の奥底に潜む何かが『壊せ』『奪え』と。今までずっと殺してきた思いだったけれど…もう限界だったようだ」
苦笑を浮かべるルゥの整った顔には、所々赤い血が付着している。
それを気にもせず、ルゥは淡々と語った。
「リーア、以前聞いたね。白は清く、黒は穢れなのか、と」
「えぇ」
「私も、白であれば清く、黒であれば穢れだとは思わない。……私は白の翼を持ち、天使を束ねる立場にありながら、こんなに黒く穢れた破壊衝動を身の内に隠し続けていたのだから」
瞳を細めて笑うその顔は、温和な彼とは違う一面を引き出している。
それはゾクリとするような恐怖心を呼び起こすというのに、何故か美しくもあった。
「白は何にも染まらない色というけれど、それは違う。白は何色にも染まる弱い色だ。だからこそ周囲の言葉に揺らされる。私は、私のこの白い羽根が憎かったよ。白いのに6枚もある羽根を生み出させた神がずっと憎かった」
美しい笑顔で、酷く冷たい言葉。
「リーアのその漆黒の翼が羨ましかったよ。黒はその色以外に染まらない強さがある。そしてリーアはその強さを持っている。美しく強いリーアが、私は何よりも好きだった。そう…神よりも」
何人もの血を浴び、命を奪ったその手をすい、とリーアに差し出す。
「おいで、私のリーア。私と共に来るんだ」
バサリ、と真紅の6枚の羽根が広がるのを、リーアはどこか呆然とした面持ちでずっと見ていた。
自分に差し出された手は相変わらず美しくて、ふらりと近寄り、その手を取った。
「リーア…私のリーア……。もう、私以外見る事は許さない。リーアは私だけを見ていたらいい。他に何も映す必要はない」
「うん」
「いい子だ。私のリーア……リヴァイアサン」
「ルシフェル…」
広がった真紅の6枚の羽根は、リーアを抱きしめたまま空へと舞い上がるために動く。
漆黒の瞳は昏い光を灯し、愛しげにリーアを見つめる。
リーアもまた、恍惚とした表情でルゥを見つめてすがるように首に腕を回した。
そして2人は破壊し尽くす。
天界の中心を、これ以上ないという程に。
2人は堕ちた。
深く、暗い魔界へと。
そして2人は魔界を統べる存在となった。
ルシフェルは魔の全てを統べる王に。
リヴァイアサンは魔の軍団の1つを司る将に。
行き着く先は、果たして――――――。
*******************
【BGM:主よ人の望みよ喜びよ(バッハ)】
特に天使は「白」く、悪魔は「黒」だなどと戯言を言う。
そんな事はない。
実際は天使であっても黒い翼を持ち、悪魔であっても白い翼を持つ者だっている。
だからこそ、リーアは色で区別をしようとする人間を心の中で嘲っていた。
リーアの翼の色は天使の属性にありながらも黒い。
しかし周囲はその事について何ら揶揄する言葉をかけない。
なぜなら、リーアの背中の翼は4枚の翼がついている。
翼の枚数が多ければ多いほど力が強いのは、誰もが知っている世の理。
それにのっとれば、大概の天使はリーアの力を恐れて何も言わずにただ媚びへつらった。
それを見るたび、リーアはにこりと笑みを浮かべて聞き流す。
心の中であれこれと皮肉の言葉を並べ立てながら。
白ければ清い。黒ければ穢れ。
なんとも滑稽な線引き。
白い者が黒くないなどと、誰にわかるというのか。
黒い者が白くないなどと、どうしてわかるのか。
どうして白こそが天使だというなら、万能なる神は、我らが父は――――――。
「……ほんと、ふざけんじゃないわよ」
「厳しいな、リーアは」
「ルゥ!」
当てもなくぶらぶらと美しく手入れのされている庭園を歩いていたリーアに、背後から声がかかる。
耳によくなじみ、誰よりも愛しいその声にリーアは満面の笑みを浮かべて振り返った。
そこにいたのは想像していた通りの人。
リーアとは違って真っ白い翼を、それも6枚背中から優雅に広げているルゥ。
けれど艶やかな髪も、優しげな双眸も、リーアの翼と同じ漆黒の色をしていて、それに触れるのも見つめられるのもリーアは好きだった。
「また何か言われたのか?」
「顔を合わせる度に。うるさいったらないわ。私の翼の色と枚数がよほど気に入らないのね」
「はは……。仕方ないさ。実際天使長の座についた者で、黒い翼だった者はいないのだから」
「だったら白い翼の中から選べばいいのよ」
「それもできないってわかってるだろう? 賢い私のリーア」
そっと腕の中に包まれ、囁くように言われる。
たったそれだけで苛々していた気持ちが治まった気がした。
広い胸に頬を摺り寄せ、リーアは甘えるように上目使いでルゥを見上げる。
「わかってる。今白い翼で4枚以上持ってる人間は既に天使長の座についてて、私しか空座を埋める4枚羽根はいないんですもの。……だったら今更アレコレと言ってくるのは筋違いよ」
「そう言ってやらないでくれ。彼らも必死なんだよ。近頃…あまりいい空気が漂っていないから」
「う、ん……」
苦笑交じりにルゥに言われると、それだけでリーアは大人しくなった。
そしてルゥの言葉に眉を寄せる。
実際、今天使たちの住まう天界はあまりいい状態ではない。
万能なる我らが父の力が弱まるこの時期を察知し、魔界がじわりじわりと攻勢を仕掛けているのだ。
他の天使長は全てその守護や警備にあたっていて、天界の中心地である城に残っているのは、大天使長であるルゥと、その補佐に選ばれているリーアだけだった。
皆が噂する。
父は我らを見捨てるのか
バカな事を言うな!
しかし現に父は我らの危機を見過ごしておられる!
そういう事を軽軽しく言うものではない!
ならば何故我らが父は何も言ってくださらぬのか!
えぇい黙れ! そう言う戯言こそが我らの結束を乱すのだ!
くだらない、とリーアはいつも鼻でせせら笑うやりとり。
我らが父を信じる者と、信じたいと思いながらも疑惑を覚える者。
我ら天使にとって、「信じる」という行為は何よりも大切になる。
「神を信じる」からこそ、存在を許されていると言っても過言ではない。
「神を信じる行為をやめる」「神を裏切る行為」―――――それはすなわち『堕天』となるのだ。
だからこそ常に天使は万能なる父を崇め、恐れ、信じる。
そうする事で己を律し、存在し続ける。
けれど…。
「どうした、リーア?」
「ルゥ…」
「いいよ。何でも言ってごらん?」
言うべきかどうか迷うリーアの心のうちを汲み取り、優しい笑みを浮かべてリーアの柔らかなウェーブがかった亜麻色の髪を梳く。
腰まで届くほどの長い髪は無造作に背中に流しているから、風が吹くたびにゆらゆらと揺れる度にルゥが「リーアの髪は綺麗だね」と誉めてくれるから、リーアも己の髪が好きだった。
「私は……父が何をお考えなのかわからない」
「……そう」
「今の状況が父のせいだとは思わないし、そうではないってわかってる。でも…父の影響力がなくなったのは事実で、そのせいで口さがない者が増えてるのも事実」
「そうだね」
「それに……」
「それに?」
「……どうして、どうして父は…白い者を好むというのに、天使に黒い羽根という存在を生み出されたのかわからない。今、黒い羽根の天使が増えてるのは、父の影響力が薄れたせいなの?」
リーアの言葉に、ルゥは悲しげな表情を浮かべた。
大天使長たる彼は、いわば「神」に最も近い存在なのだから、今のリーアの言葉は辛かったかもしれない……そう思い至ってリーアは謝罪の言葉を紡ごうとするが、それよりも早くルゥが口を開いた。
「リーアは…白ければ清く、黒ければ穢れていると思うのかい?」
「いいえ」
「そう言うと思った」
くすりと笑みを浮かべ、額に口付けを1つ落としてくれる。
より一層身体を密着させるように抱きしめられ、リーアはほんのりと頬を染めつつもルゥの首に腕を回した。
「もし黒が穢れだというなら、リーアは穢れている事になるからね。でもそんな事はないっていうのは、私が一番よくわかってる」
「ん…ありがとうルゥ」
「それに」
ルゥが密やかに何かを呟こうとした瞬間、強い風が吹き抜けた。
まるで意図的に、それこそ「神」が吹かせたのではないかと思うほどに強い風の音は、ルゥの言の葉を完全に浚っていった。
「何? 今何て言ったのルゥ。こんなに近くにいたのに……」
全然聞こえなかった、と続けようとした言葉だが、胸に埋めていた顔をあげてルゥの顔を覗き込む事で見えたルゥの顔が、思いの外険しかった事に驚いて思わず飲み込んでしまう。
けれどリーアの視線に気づいたルゥはすぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべて「大したことじゃないから、気にしなくていいよ」と額に、頬に口付けを落とす。
それを嬉しく思いながら受け止める反面、ルゥの聞けなかった言葉が胸に小さな棘を残した。
その棘は
1つの予兆
この後に起こる惨劇の
前触れに過ぎなかった。
ある日ルゥは天界の中心である城を攻撃した。
全ての天使長が天界の隅にて警備にあたっている隙をついての出来事。
6枚羽根を有するルゥのその暴走を止めることができる者はおらず、敢えて言うならば補佐をしていたリーア位しかいない。
城の中心部にある聖堂で2人は逢い見える。
ルゥの真っ白い翼はたくさんの返り血を浴びて真紅に染まっている。
リーアはそれすらも美しいと、思わず見惚れた。
そんなリーアに、ルゥは相変わらず優しい笑みを浮かべて声をかける。
「やぁ。私をとめにくるのはリーアしかいないと思っていた」
「そうね。他に天使長クラスの者はいないから。戻るにしても3日はかかるでしょうね」
「そうだね。だからこそ、今日という日を選んだのだけれど」
にこりと笑って緩く首を傾げるルゥ。
リーアはいつもと変わらない笑みを浮かべているルゥを見つめながら同じように首を傾げた。
「どうして、こんな事を?」
「わからないんだ、私も」
「え?」
「ただ、衝動のままに。何かに突き動かされたんだ。自分の奥底に潜む何かが『壊せ』『奪え』と。今までずっと殺してきた思いだったけれど…もう限界だったようだ」
苦笑を浮かべるルゥの整った顔には、所々赤い血が付着している。
それを気にもせず、ルゥは淡々と語った。
「リーア、以前聞いたね。白は清く、黒は穢れなのか、と」
「えぇ」
「私も、白であれば清く、黒であれば穢れだとは思わない。……私は白の翼を持ち、天使を束ねる立場にありながら、こんなに黒く穢れた破壊衝動を身の内に隠し続けていたのだから」
瞳を細めて笑うその顔は、温和な彼とは違う一面を引き出している。
それはゾクリとするような恐怖心を呼び起こすというのに、何故か美しくもあった。
「白は何にも染まらない色というけれど、それは違う。白は何色にも染まる弱い色だ。だからこそ周囲の言葉に揺らされる。私は、私のこの白い羽根が憎かったよ。白いのに6枚もある羽根を生み出させた神がずっと憎かった」
美しい笑顔で、酷く冷たい言葉。
「リーアのその漆黒の翼が羨ましかったよ。黒はその色以外に染まらない強さがある。そしてリーアはその強さを持っている。美しく強いリーアが、私は何よりも好きだった。そう…神よりも」
何人もの血を浴び、命を奪ったその手をすい、とリーアに差し出す。
「おいで、私のリーア。私と共に来るんだ」
バサリ、と真紅の6枚の羽根が広がるのを、リーアはどこか呆然とした面持ちでずっと見ていた。
自分に差し出された手は相変わらず美しくて、ふらりと近寄り、その手を取った。
「リーア…私のリーア……。もう、私以外見る事は許さない。リーアは私だけを見ていたらいい。他に何も映す必要はない」
「うん」
「いい子だ。私のリーア……リヴァイアサン」
「ルシフェル…」
広がった真紅の6枚の羽根は、リーアを抱きしめたまま空へと舞い上がるために動く。
漆黒の瞳は昏い光を灯し、愛しげにリーアを見つめる。
リーアもまた、恍惚とした表情でルゥを見つめてすがるように首に腕を回した。
そして2人は破壊し尽くす。
天界の中心を、これ以上ないという程に。
2人は堕ちた。
深く、暗い魔界へと。
そして2人は魔界を統べる存在となった。
ルシフェルは魔の全てを統べる王に。
リヴァイアサンは魔の軍団の1つを司る将に。
行き着く先は、果たして――――――。
*******************
【BGM:主よ人の望みよ喜びよ(バッハ)】
PR
2005.05.26 Thu 00:46:05
あなたは、恋人をなんと呼ぶだろうか。
名前? それとも愛称?
ならば、その相手と結婚した後は、なんと呼ぶのだろうか。
名前? 愛称? それとも…………。
「奥さん。おーくさーん?」
台所で紅茶の準備をしていた陽菜の耳に、葉流の声が届く。
「どうかした? だんなさま」
「僕がココに置いておいた雑誌知らない?」
「…捨てたかも」
「ゑ」
「もう読み終わっちゃったのかなー、とか思って」
てへ、と語尾にハートマークをつけつつ、陽菜が軽く首を傾げながらお茶目感を滲ませて言うと、葉流はピシリと凍りついた。
「…奥さーん…まだそれ読んでなかったんだけどぉ…?」
「…ご、ごめん……」
「ま、いいけどさ。置きっぱなしにしといた僕も悪いんだし…」
「お、お詫びにだんなさまの好きな紅茶とお菓子用意するから、ね?」
がっくりとうな垂れた葉流を慰めようと、陽菜はことさら大きな声で話しながら、葉流の背中を押してキッチンへと向かう。
いまだしょんぼりしてるような葉流を何とか椅子に座らせ、陽菜は袖を捲りながら用意しておいたインスタントの紅茶パックをしまい、戸棚の奥に大切にしまいこんでいた紅茶缶を出す。
適温のお湯を紅茶ポットに注ぎ、適した時間だけ蒸らしてから、温めておいたカップにそっと注ぐ。
ふわりと漂う紅茶の香りに、葉流は気分が上昇気流に乗ったのか少しだけ笑みを見せた。
「はい、だんなさま」
「ありがと奥さん」
葉流の前に淹れたての紅茶をおき、近くには手作りのマドレーヌも添える。
もちろん自分の分の紅茶とマドレーヌも準備して、葉流の前である自分の定位置に座った。
「………ん。美味しい。さすが奥さん」
「ふふふー。まぁね」
「マドレーヌも美味しいよ」
「良かった」
こくんと紅茶を1口。
ぱくりとマドレーヌも1口。
幸せそうに笑ってくれる葉流に、陽菜もまた嬉しそうに笑う。
「ねぇねぇ、だんなさま」
「ん?」
「後で本屋さん行こ?」
「何で?」
「捨てちゃった本の代わりに何か買いに行かないかな、って」
「……そうだね、行こうか」
「うん。じゃあ決まり!」
顔を見合わせてにこりと笑って、約束の指きりも交わす。
「約束だよ、奥さん」
「約束ね、だんなさま」
ついでとばかりに、約束のキスも交わした。
あなたは、自分の伴侶をなんと呼ぶだろうか。
名前? 愛称? パパやママ? お父さんやお母さん?
それとも……
「ねぇ、奥さん」
「なぁに? だんなさま」
****************************************************
可愛いと思うの…「奥さん」「旦那さん」っていう呼び方…(笑)。
名前? それとも愛称?
ならば、その相手と結婚した後は、なんと呼ぶのだろうか。
名前? 愛称? それとも…………。
「奥さん。おーくさーん?」
台所で紅茶の準備をしていた陽菜の耳に、葉流の声が届く。
「どうかした? だんなさま」
「僕がココに置いておいた雑誌知らない?」
「…捨てたかも」
「ゑ」
「もう読み終わっちゃったのかなー、とか思って」
てへ、と語尾にハートマークをつけつつ、陽菜が軽く首を傾げながらお茶目感を滲ませて言うと、葉流はピシリと凍りついた。
「…奥さーん…まだそれ読んでなかったんだけどぉ…?」
「…ご、ごめん……」
「ま、いいけどさ。置きっぱなしにしといた僕も悪いんだし…」
「お、お詫びにだんなさまの好きな紅茶とお菓子用意するから、ね?」
がっくりとうな垂れた葉流を慰めようと、陽菜はことさら大きな声で話しながら、葉流の背中を押してキッチンへと向かう。
いまだしょんぼりしてるような葉流を何とか椅子に座らせ、陽菜は袖を捲りながら用意しておいたインスタントの紅茶パックをしまい、戸棚の奥に大切にしまいこんでいた紅茶缶を出す。
適温のお湯を紅茶ポットに注ぎ、適した時間だけ蒸らしてから、温めておいたカップにそっと注ぐ。
ふわりと漂う紅茶の香りに、葉流は気分が上昇気流に乗ったのか少しだけ笑みを見せた。
「はい、だんなさま」
「ありがと奥さん」
葉流の前に淹れたての紅茶をおき、近くには手作りのマドレーヌも添える。
もちろん自分の分の紅茶とマドレーヌも準備して、葉流の前である自分の定位置に座った。
「………ん。美味しい。さすが奥さん」
「ふふふー。まぁね」
「マドレーヌも美味しいよ」
「良かった」
こくんと紅茶を1口。
ぱくりとマドレーヌも1口。
幸せそうに笑ってくれる葉流に、陽菜もまた嬉しそうに笑う。
「ねぇねぇ、だんなさま」
「ん?」
「後で本屋さん行こ?」
「何で?」
「捨てちゃった本の代わりに何か買いに行かないかな、って」
「……そうだね、行こうか」
「うん。じゃあ決まり!」
顔を見合わせてにこりと笑って、約束の指きりも交わす。
「約束だよ、奥さん」
「約束ね、だんなさま」
ついでとばかりに、約束のキスも交わした。
あなたは、自分の伴侶をなんと呼ぶだろうか。
名前? 愛称? パパやママ? お父さんやお母さん?
それとも……
「ねぇ、奥さん」
「なぁに? だんなさま」
****************************************************
可愛いと思うの…「奥さん」「旦那さん」っていう呼び方…(笑)。
2005.04.25 Mon 00:47:53
「おはよう。気分は…どう?」
「おはよう。気持ちのいい朝です」
ところで
「あなたは……誰ですか?」
困ったように微笑まれ、「君の…恋人だよ」と答えると、驚いたように瞳を見開かれる。
きょろきょろと辺りを見回して、不安そうに顔を歪める目の前の人に、ポケットに入れている写真を見せる。
「ほら。付き合ってた頃の写真。君と、俺が写ってる」
「ほんと、だ……」
ベッドから身体を起こしたままの状態のその人に写真を見せると、驚きながらも一応は納得してくれる。
そして照れたように笑って「幸せそう…」と呟く。
その言葉に嬉しさと切なさを感じ、思わず顔を背けた。
「……ご飯にしよう。記憶…ない間の話も、子どもの頃の話もするよ」
「あ、はい。お願いします」
にこりと微笑むその表情は、昔から変わらない。
それが余計に切なかった。
朝食を食べながら、記憶を失った経緯を話した。
階段から落ち、頭部を打ったために記憶が一部なくなっている事。
身体には問題がないから医者には定期的に通ってはいるが、普段はここで一緒に暮らしている事。
いずれ、記憶は戻るであろう、という事。
「記憶がなくて…俺との事も忘れた状態で、俺と一緒に暮らすのは不安があるかもしれないけれど……」
「そんな…。感謝してます。記憶がないのに、こんな優しくしてもらって……。むしろ、記憶がなくて、悲しいのはあなた…でしょう? ごめんなさい…忘れてしまって」
申し訳なさそうに俯いて謝る姿に、ぎゅっと拳を握り締める。
食い込む爪の痛みより、心が痛んだ。
それを押し殺し、にこりと笑みを浮かべる。
「俺の事はいいから。君は、君の思った通りに生活してくれたらいい。ああ、そうだ。アルバム、見るかい? 君の子どもの頃の写真もあるよ」
「そんな小さい頃から、あなたと一緒にいるんですか?」
「まあ、幼馴染だったしね。でも君が持ち込んだ荷物にもアルバムがあるから、それには君の赤ん坊の頃の写真があるんじゃないかな?」
「見てもいいですか?」
「もちろん。そもそも君のだよ?」
「あ、そうですよね」
照れ笑いを浮かべるその人に、笑顔を送る。
そして一緒に朝食の片づけをして、リビングで写真を見た。
1枚1枚説明をしながら、記憶の鍵を見つけていく。
「何だか、この場所見覚えがある、気がします」
「もしかして、この後…泣いたりしなかった?」
「……覚えてる! ここ、覚えてる!」
ゆっくりと記憶のピースを見つけていく度に、笑顔が晴れやかになっていく。
形を為していなかったパズルが嵌まっていく度に、微笑みかける。
その笑顔につられるようにして、微笑む。
けれど、心の中はどうしても晴れなかった。
小さな、けれど確実な不安と確信があるから。
昼ご飯と夕飯をはさみ、飽きる事なくアルバムを見ていた。
シャワーを浴びてさっぱりした姿で戻るその人に「もう、寝る?」と尋ねると、ゆっくり首を振る。
「何だか、眠りたくないんです」
「どうして?」
「怖い、のかもしれません。理由は……わからないけれど。眠ってはいけない気がして…」
「……そう…。じゃあ、眠くなるまでビデオ、見る?」
「ビデオ?」
「そう。俺達の友人の家でホームパーティしたんだけど、その時のビデオ。アルバムにも結構映ってた奴らばかりだから、見てても飽きないと思うよ」
「じゃあ、見せて下さい」
「ん。じゃあ待ってて。準備する」
ソファーに座らせてほかほかのホットココアを手渡した後、リモコンの再生スイッチを押す。
映った画面には、楽しげに微笑む俺達がいた。
『あははは! ちょ、クラッカーこっちに向けないでよ!』
パァン!
『っ…! 脅かすな! バカ!!』
『気付かない方がバカなんだよ』
『何をー!?』
『あはははははは!!』
「…楽しそう」
「うん。楽しかったよ」
「……少しだけ、覚えてる気がします。このパーティーが終わるのが名残惜しくて…また開こうって。そう言ってた気がするから」
「うん。君はそう言ってた。皆も…俺も、頷いてた」
「そうですか…」
「うん」
そっと、肩に寄りかかってくる重みを抱き寄せる。
「この感じ、何だか覚えてる」と嬉しそうにいう声には、少しだけ眠気が混じっていた。
部屋の明かりから遮るように、瞼を手で覆う。
「記憶…ちゃんと戻ったら、またパーティーしましょうね」
顔の半分を手で隠してしまったから、どんな表情なのかははっきりとわからないけれど、口元は笑みの形を刻んでいて……。
「うん。皆で集まって、パーティーしよう」
「やくそく、です…よ……?」
「うん。約束」
静かな寝息が聞こえ始め、画面からはビデオの終わりを告げるノイズ音が出始めたのを合図に、瞼を覆っていた手をそっと外す。
瞳を閉じてあどけない表情のその人を抱き上げて寝室のベッドに寝かせた後、額にキスを1つ落とす。
「おやすみ…。いい夢を……」
翌朝、ドアをノックして寝室に入ると、未だに眠るその人のベッドサイドに立つ。
深呼吸を1つして。
覚悟を決めて。
「おはよう。気分は…どう?」
「おはよう。気持ちのいい朝です」
眠たげに瞼を持ち上げ、ぼんやりと見つめてくる。
僅かな期待を抱く瞬間。
「ところで」
そして、いつも期待が崩れ去り、確信が現実となる瞬間。
「あなたは……誰ですか?」
階段から落ちた君。
理由は、わからない。
ただわかるのは、階段から落ちて、記憶をなくしてしまったという事だけ。
戸惑いながら、記憶をなくした事を受け止め、記憶を取り戻そうと頑張る君をあざ笑うように、眠りから覚めるといつも記憶は消え去っていた。
1日がかりで集めたパズルピースは、いつもたった一晩で散り散りになる。
毎朝、戸惑う君を見る。
毎晩、「眠りたくない」と漠然とした不安を訴える君に会う。
笑う君が切なくて、愛しくて、どうしようもなくなる。
そんな君に、してあげられる事はとても少なくて……。
いつもポケットに入れている写真の存在を指先で確認する。
「君の…恋人だよ」
毎日、壊れたオーディオのように、同じ台詞を繰り返す。
毎日、昔を振り返る。
毎日、同じ会話を繰り返す。
***************
君が朝目覚めて、俺の名前を呼んでくれるその日まで。
「おはよう。気持ちのいい朝です」
ところで
「あなたは……誰ですか?」
困ったように微笑まれ、「君の…恋人だよ」と答えると、驚いたように瞳を見開かれる。
きょろきょろと辺りを見回して、不安そうに顔を歪める目の前の人に、ポケットに入れている写真を見せる。
「ほら。付き合ってた頃の写真。君と、俺が写ってる」
「ほんと、だ……」
ベッドから身体を起こしたままの状態のその人に写真を見せると、驚きながらも一応は納得してくれる。
そして照れたように笑って「幸せそう…」と呟く。
その言葉に嬉しさと切なさを感じ、思わず顔を背けた。
「……ご飯にしよう。記憶…ない間の話も、子どもの頃の話もするよ」
「あ、はい。お願いします」
にこりと微笑むその表情は、昔から変わらない。
それが余計に切なかった。
朝食を食べながら、記憶を失った経緯を話した。
階段から落ち、頭部を打ったために記憶が一部なくなっている事。
身体には問題がないから医者には定期的に通ってはいるが、普段はここで一緒に暮らしている事。
いずれ、記憶は戻るであろう、という事。
「記憶がなくて…俺との事も忘れた状態で、俺と一緒に暮らすのは不安があるかもしれないけれど……」
「そんな…。感謝してます。記憶がないのに、こんな優しくしてもらって……。むしろ、記憶がなくて、悲しいのはあなた…でしょう? ごめんなさい…忘れてしまって」
申し訳なさそうに俯いて謝る姿に、ぎゅっと拳を握り締める。
食い込む爪の痛みより、心が痛んだ。
それを押し殺し、にこりと笑みを浮かべる。
「俺の事はいいから。君は、君の思った通りに生活してくれたらいい。ああ、そうだ。アルバム、見るかい? 君の子どもの頃の写真もあるよ」
「そんな小さい頃から、あなたと一緒にいるんですか?」
「まあ、幼馴染だったしね。でも君が持ち込んだ荷物にもアルバムがあるから、それには君の赤ん坊の頃の写真があるんじゃないかな?」
「見てもいいですか?」
「もちろん。そもそも君のだよ?」
「あ、そうですよね」
照れ笑いを浮かべるその人に、笑顔を送る。
そして一緒に朝食の片づけをして、リビングで写真を見た。
1枚1枚説明をしながら、記憶の鍵を見つけていく。
「何だか、この場所見覚えがある、気がします」
「もしかして、この後…泣いたりしなかった?」
「……覚えてる! ここ、覚えてる!」
ゆっくりと記憶のピースを見つけていく度に、笑顔が晴れやかになっていく。
形を為していなかったパズルが嵌まっていく度に、微笑みかける。
その笑顔につられるようにして、微笑む。
けれど、心の中はどうしても晴れなかった。
小さな、けれど確実な不安と確信があるから。
昼ご飯と夕飯をはさみ、飽きる事なくアルバムを見ていた。
シャワーを浴びてさっぱりした姿で戻るその人に「もう、寝る?」と尋ねると、ゆっくり首を振る。
「何だか、眠りたくないんです」
「どうして?」
「怖い、のかもしれません。理由は……わからないけれど。眠ってはいけない気がして…」
「……そう…。じゃあ、眠くなるまでビデオ、見る?」
「ビデオ?」
「そう。俺達の友人の家でホームパーティしたんだけど、その時のビデオ。アルバムにも結構映ってた奴らばかりだから、見てても飽きないと思うよ」
「じゃあ、見せて下さい」
「ん。じゃあ待ってて。準備する」
ソファーに座らせてほかほかのホットココアを手渡した後、リモコンの再生スイッチを押す。
映った画面には、楽しげに微笑む俺達がいた。
『あははは! ちょ、クラッカーこっちに向けないでよ!』
パァン!
『っ…! 脅かすな! バカ!!』
『気付かない方がバカなんだよ』
『何をー!?』
『あはははははは!!』
「…楽しそう」
「うん。楽しかったよ」
「……少しだけ、覚えてる気がします。このパーティーが終わるのが名残惜しくて…また開こうって。そう言ってた気がするから」
「うん。君はそう言ってた。皆も…俺も、頷いてた」
「そうですか…」
「うん」
そっと、肩に寄りかかってくる重みを抱き寄せる。
「この感じ、何だか覚えてる」と嬉しそうにいう声には、少しだけ眠気が混じっていた。
部屋の明かりから遮るように、瞼を手で覆う。
「記憶…ちゃんと戻ったら、またパーティーしましょうね」
顔の半分を手で隠してしまったから、どんな表情なのかははっきりとわからないけれど、口元は笑みの形を刻んでいて……。
「うん。皆で集まって、パーティーしよう」
「やくそく、です…よ……?」
「うん。約束」
静かな寝息が聞こえ始め、画面からはビデオの終わりを告げるノイズ音が出始めたのを合図に、瞼を覆っていた手をそっと外す。
瞳を閉じてあどけない表情のその人を抱き上げて寝室のベッドに寝かせた後、額にキスを1つ落とす。
「おやすみ…。いい夢を……」
翌朝、ドアをノックして寝室に入ると、未だに眠るその人のベッドサイドに立つ。
深呼吸を1つして。
覚悟を決めて。
「おはよう。気分は…どう?」
「おはよう。気持ちのいい朝です」
眠たげに瞼を持ち上げ、ぼんやりと見つめてくる。
僅かな期待を抱く瞬間。
「ところで」
そして、いつも期待が崩れ去り、確信が現実となる瞬間。
「あなたは……誰ですか?」
階段から落ちた君。
理由は、わからない。
ただわかるのは、階段から落ちて、記憶をなくしてしまったという事だけ。
戸惑いながら、記憶をなくした事を受け止め、記憶を取り戻そうと頑張る君をあざ笑うように、眠りから覚めるといつも記憶は消え去っていた。
1日がかりで集めたパズルピースは、いつもたった一晩で散り散りになる。
毎朝、戸惑う君を見る。
毎晩、「眠りたくない」と漠然とした不安を訴える君に会う。
笑う君が切なくて、愛しくて、どうしようもなくなる。
そんな君に、してあげられる事はとても少なくて……。
いつもポケットに入れている写真の存在を指先で確認する。
「君の…恋人だよ」
毎日、壊れたオーディオのように、同じ台詞を繰り返す。
毎日、昔を振り返る。
毎日、同じ会話を繰り返す。
***************
君が朝目覚めて、俺の名前を呼んでくれるその日まで。
2004.12.30 Thu 00:49:25
真新しい軍服に身を包んだその人は、凛としていて美しかったのです。
その瞳には何が映っているのだろうと、覗き込めば、覗き込んだ私だけが映っておりました。
「……どうか、しましたか?」
男がにこりと微笑んで首を傾げる。
私は少しだけ喉を詰まらせながら、「いいえ」と小さく呟いた。
男は困ったように笑うと、「そうですか」と私と同じように小さく呟き、手にしていた軍帽を深く被った。
たったそれだけの仕草なのに、私の知っているその人ではなくなってしまったかのようで、私は思わず袖を掴んだ。
男は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく笑って私の手を覆うように握ってくれた。
「いつものあなたらしくない。いつもなら私を追い出す勢いで送り出してくれるのに」
「っ……それは一体どういう意味?!」
「ふふ。そうそう。そんな感じで怒りながら僕の背中を押すんです」
私が真っ赤になって目を吊り上げると、男はくすくす笑った。
その顔があんまりにも綺麗で、私は怒るのも忘れて見惚れた。
元々怒ってなんかいなかったけれど……。
「…どうしました? 本当にいつものあなたらしくない」
男は微笑を浮かべて私の頭を撫でる。
いつもそうやって子ども扱いする。
それを私はいつも怒ったけれど、今は払いのける事もできなかった。
だって、子ども扱いすらも私には嬉しいふれあいだったから。
それが今、私の手の届かない所に行こうとしている。
「――――――…っ…ぃで…」
「え?」
「行かないで! 私の傍にいて! どこにも行かないで…っ!!」
堪えきれず、涙を流しながら私は男にしがみついた。
真新しい軍服からは、いつもの男の香りがしなかったけれど、いつもの男の温もりはあった。
こんなに近くにいるのに。
こんなに温かいのに。
ずっとずっと一緒にいられると思ったのに。
「……すみません」
「謝らないで! 一緒にいてくれるだけでいいから! どこにも行かないでここにいて欲しいの!」
「すみません……」
しがみつく私を優しく抱きしめる男の腕。
あたたかで、優しくて、大好きな腕。
これがなくなってしまうの?
どうしてなくなるの?
どうしていなくなるの?
「お願い…行かないで……っ…」
子どものように泣きじゃくる私を、男はただ謝り続け、そしてあやし続けた。
弁解もせず、私が我儘を言う度に言ってくれた「あなたが望むなら仕方ないですね」という言葉もなく、ただただ謝り、あやした。
ようやく泣き止んだ私を、男はそっと離す。
「もう、行かないと」
「いやっ…!行かないで! 傍にいて……っ……………」
また零れ落ちた涙を見て、男は切なそうに笑みを浮かべる。
「…その我儘だけは聞けません。あなたの願いは全て叶えたいけれど…その我儘だけは聞けない」
「…っ……」
「だから………すみません」
にこりと笑うその顔はいつもと同じで優しかった。
けれど、初めてその笑顔が残酷だと思った。
涙の流れる私の頬を撫で、雫を袖で優しく拭ってくれる。
そんな仕草さえ、優しくて残酷だった。
「…じゃあ、約束して?」
「何をですか?」
「私のところに、かえってくるって」
「…はい」
「約束よ? 必ずよ?」
「はい。約束します」
何度も念を押す私に、男は笑って頷いた。
約束の証というように、私が念を押した数だけ口付けてくれた。
「必ずあなたの元に、かえります」
「うん」
そして私は初めて笑って男を送り出した。
私は知っておりました。
男は死ににゆく事を、誰よりも知っておりました。
生きて帰る事がないのは、誰よりもよくわかっておりました。
けれど、約束したのです。
男は「かえってくる」と。約束してくれたのです。
だから、私は待ち続けます。
男が還ってくるのを、待ちます。
愛しいあの人が、私の大好きなあの笑顔で戻るのを。
―――――約束よ?
――――――必ずあなたの元に、還ります。
*****************************
元ネタは某大河ドラマだったりなかったり。
その瞳には何が映っているのだろうと、覗き込めば、覗き込んだ私だけが映っておりました。
「……どうか、しましたか?」
男がにこりと微笑んで首を傾げる。
私は少しだけ喉を詰まらせながら、「いいえ」と小さく呟いた。
男は困ったように笑うと、「そうですか」と私と同じように小さく呟き、手にしていた軍帽を深く被った。
たったそれだけの仕草なのに、私の知っているその人ではなくなってしまったかのようで、私は思わず袖を掴んだ。
男は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく笑って私の手を覆うように握ってくれた。
「いつものあなたらしくない。いつもなら私を追い出す勢いで送り出してくれるのに」
「っ……それは一体どういう意味?!」
「ふふ。そうそう。そんな感じで怒りながら僕の背中を押すんです」
私が真っ赤になって目を吊り上げると、男はくすくす笑った。
その顔があんまりにも綺麗で、私は怒るのも忘れて見惚れた。
元々怒ってなんかいなかったけれど……。
「…どうしました? 本当にいつものあなたらしくない」
男は微笑を浮かべて私の頭を撫でる。
いつもそうやって子ども扱いする。
それを私はいつも怒ったけれど、今は払いのける事もできなかった。
だって、子ども扱いすらも私には嬉しいふれあいだったから。
それが今、私の手の届かない所に行こうとしている。
「――――――…っ…ぃで…」
「え?」
「行かないで! 私の傍にいて! どこにも行かないで…っ!!」
堪えきれず、涙を流しながら私は男にしがみついた。
真新しい軍服からは、いつもの男の香りがしなかったけれど、いつもの男の温もりはあった。
こんなに近くにいるのに。
こんなに温かいのに。
ずっとずっと一緒にいられると思ったのに。
「……すみません」
「謝らないで! 一緒にいてくれるだけでいいから! どこにも行かないでここにいて欲しいの!」
「すみません……」
しがみつく私を優しく抱きしめる男の腕。
あたたかで、優しくて、大好きな腕。
これがなくなってしまうの?
どうしてなくなるの?
どうしていなくなるの?
「お願い…行かないで……っ…」
子どものように泣きじゃくる私を、男はただ謝り続け、そしてあやし続けた。
弁解もせず、私が我儘を言う度に言ってくれた「あなたが望むなら仕方ないですね」という言葉もなく、ただただ謝り、あやした。
ようやく泣き止んだ私を、男はそっと離す。
「もう、行かないと」
「いやっ…!行かないで! 傍にいて……っ……………」
また零れ落ちた涙を見て、男は切なそうに笑みを浮かべる。
「…その我儘だけは聞けません。あなたの願いは全て叶えたいけれど…その我儘だけは聞けない」
「…っ……」
「だから………すみません」
にこりと笑うその顔はいつもと同じで優しかった。
けれど、初めてその笑顔が残酷だと思った。
涙の流れる私の頬を撫で、雫を袖で優しく拭ってくれる。
そんな仕草さえ、優しくて残酷だった。
「…じゃあ、約束して?」
「何をですか?」
「私のところに、かえってくるって」
「…はい」
「約束よ? 必ずよ?」
「はい。約束します」
何度も念を押す私に、男は笑って頷いた。
約束の証というように、私が念を押した数だけ口付けてくれた。
「必ずあなたの元に、かえります」
「うん」
そして私は初めて笑って男を送り出した。
私は知っておりました。
男は死ににゆく事を、誰よりも知っておりました。
生きて帰る事がないのは、誰よりもよくわかっておりました。
けれど、約束したのです。
男は「かえってくる」と。約束してくれたのです。
だから、私は待ち続けます。
男が還ってくるのを、待ちます。
愛しいあの人が、私の大好きなあの笑顔で戻るのを。
―――――約束よ?
――――――必ずあなたの元に、還ります。
*****************************
元ネタは某大河ドラマだったりなかったり。
2004.05.22 Sat 17:16:01
各タイトルをクリックすると、同一窓にて該当記事に飛びます。
お戻りの際はブラウザバックをご利用くださいませ。
※死にネタも混入しております。お気をつけ下さい。
【短編集】
わがままなねがい / 懐古 / ご夫婦物語 / 主よ人の望みよ悦びよ / 従え さもなくば 抗え / 断罪すべきは、 / 足りないならば育てればいい / 年齢に見合った言葉でどうぞ / 白い空間での絶望は一生の後悔となった / 花泥棒 / この日が永遠に / 腕 / そしてまた人を殺す / やわらかなものにふれた / ないしょ / 憧憬
【シリーズ系】
《青春デイズ》
平たく言えば学園ホモの1話完結方式SS群。コミカル系が多いと思います。
青春デイズ -キャラ設定集ー / 『青春デイズ -日常的昼休み風景-』 / 『青春デイズ -Present for……?-』
お戻りの際はブラウザバックをご利用くださいませ。
※死にネタも混入しております。お気をつけ下さい。
【短編集】
わがままなねがい / 懐古 / ご夫婦物語 / 主よ人の望みよ悦びよ / 従え さもなくば 抗え / 断罪すべきは、 / 足りないならば育てればいい / 年齢に見合った言葉でどうぞ / 白い空間での絶望は一生の後悔となった / 花泥棒 / この日が永遠に / 腕 / そしてまた人を殺す / やわらかなものにふれた / ないしょ / 憧憬
【シリーズ系】
《青春デイズ》
平たく言えば学園ホモの1話完結方式SS群。コミカル系が多いと思います。
青春デイズ -キャラ設定集ー / 『青春デイズ -日常的昼休み風景-』 / 『青春デイズ -Present for……?-』