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「おはよう。気分は…どう?」
「おはよう。気持ちのいい朝です」




ところで





「あなたは……誰ですか?」












困ったように微笑まれ、「君の…恋人だよ」と答えると、驚いたように瞳を見開かれる。
きょろきょろと辺りを見回して、不安そうに顔を歪める目の前の人に、ポケットに入れている写真を見せる。


「ほら。付き合ってた頃の写真。君と、俺が写ってる」
「ほんと、だ……」


ベッドから身体を起こしたままの状態のその人に写真を見せると、驚きながらも一応は納得してくれる。
そして照れたように笑って「幸せそう…」と呟く。
その言葉に嬉しさと切なさを感じ、思わず顔を背けた。


「……ご飯にしよう。記憶…ない間の話も、子どもの頃の話もするよ」
「あ、はい。お願いします」


にこりと微笑むその表情は、昔から変わらない。
それが余計に切なかった。








朝食を食べながら、記憶を失った経緯を話した。
階段から落ち、頭部を打ったために記憶が一部なくなっている事。
身体には問題がないから医者には定期的に通ってはいるが、普段はここで一緒に暮らしている事。
いずれ、記憶は戻るであろう、という事。


「記憶がなくて…俺との事も忘れた状態で、俺と一緒に暮らすのは不安があるかもしれないけれど……」
「そんな…。感謝してます。記憶がないのに、こんな優しくしてもらって……。むしろ、記憶がなくて、悲しいのはあなた…でしょう? ごめんなさい…忘れてしまって」



申し訳なさそうに俯いて謝る姿に、ぎゅっと拳を握り締める。
食い込む爪の痛みより、心が痛んだ。
それを押し殺し、にこりと笑みを浮かべる。


「俺の事はいいから。君は、君の思った通りに生活してくれたらいい。ああ、そうだ。アルバム、見るかい? 君の子どもの頃の写真もあるよ」
「そんな小さい頃から、あなたと一緒にいるんですか?」
「まあ、幼馴染だったしね。でも君が持ち込んだ荷物にもアルバムがあるから、それには君の赤ん坊の頃の写真があるんじゃないかな?」
「見てもいいですか?」
「もちろん。そもそも君のだよ?」
「あ、そうですよね」


照れ笑いを浮かべるその人に、笑顔を送る。
そして一緒に朝食の片づけをして、リビングで写真を見た。
1枚1枚説明をしながら、記憶の鍵を見つけていく。




「何だか、この場所見覚えがある、気がします」



「もしかして、この後…泣いたりしなかった?」


「……覚えてる! ここ、覚えてる!」







ゆっくりと記憶のピースを見つけていく度に、笑顔が晴れやかになっていく。
形を為していなかったパズルが嵌まっていく度に、微笑みかける。
その笑顔につられるようにして、微笑む。
けれど、心の中はどうしても晴れなかった。
小さな、けれど確実な不安と確信があるから。










昼ご飯と夕飯をはさみ、飽きる事なくアルバムを見ていた。
シャワーを浴びてさっぱりした姿で戻るその人に「もう、寝る?」と尋ねると、ゆっくり首を振る。


「何だか、眠りたくないんです」
「どうして?」
「怖い、のかもしれません。理由は……わからないけれど。眠ってはいけない気がして…」
「……そう…。じゃあ、眠くなるまでビデオ、見る?」
「ビデオ?」
「そう。俺達の友人の家でホームパーティしたんだけど、その時のビデオ。アルバムにも結構映ってた奴らばかりだから、見てても飽きないと思うよ」
「じゃあ、見せて下さい」
「ん。じゃあ待ってて。準備する」


ソファーに座らせてほかほかのホットココアを手渡した後、リモコンの再生スイッチを押す。
映った画面には、楽しげに微笑む俺達がいた。





『あははは! ちょ、クラッカーこっちに向けないでよ!』




パァン!




『っ…! 脅かすな! バカ!!』
『気付かない方がバカなんだよ』
『何をー!?』
『あはははははは!!』







「…楽しそう」
「うん。楽しかったよ」
「……少しだけ、覚えてる気がします。このパーティーが終わるのが名残惜しくて…また開こうって。そう言ってた気がするから」
「うん。君はそう言ってた。皆も…俺も、頷いてた」
「そうですか…」
「うん」


そっと、肩に寄りかかってくる重みを抱き寄せる。
「この感じ、何だか覚えてる」と嬉しそうにいう声には、少しだけ眠気が混じっていた。
部屋の明かりから遮るように、瞼を手で覆う。


「記憶…ちゃんと戻ったら、またパーティーしましょうね」


顔の半分を手で隠してしまったから、どんな表情なのかははっきりとわからないけれど、口元は笑みの形を刻んでいて……。



「うん。皆で集まって、パーティーしよう」
「やくそく、です…よ……?」
「うん。約束」


静かな寝息が聞こえ始め、画面からはビデオの終わりを告げるノイズ音が出始めたのを合図に、瞼を覆っていた手をそっと外す。
瞳を閉じてあどけない表情のその人を抱き上げて寝室のベッドに寝かせた後、額にキスを1つ落とす。


「おやすみ…。いい夢を……」










翌朝、ドアをノックして寝室に入ると、未だに眠るその人のベッドサイドに立つ。
深呼吸を1つして。
覚悟を決めて。



「おはよう。気分は…どう?」
「おはよう。気持ちのいい朝です」


眠たげに瞼を持ち上げ、ぼんやりと見つめてくる。
僅かな期待を抱く瞬間。



「ところで」



そして、いつも期待が崩れ去り、確信が現実となる瞬間。






「あなたは……誰ですか?」


















階段から落ちた君。
理由は、わからない。
ただわかるのは、階段から落ちて、記憶をなくしてしまったという事だけ。
戸惑いながら、記憶をなくした事を受け止め、記憶を取り戻そうと頑張る君をあざ笑うように、眠りから覚めるといつも記憶は消え去っていた。
1日がかりで集めたパズルピースは、いつもたった一晩で散り散りになる。


毎朝、戸惑う君を見る。
毎晩、「眠りたくない」と漠然とした不安を訴える君に会う。
笑う君が切なくて、愛しくて、どうしようもなくなる。






そんな君に、してあげられる事はとても少なくて……。
いつもポケットに入れている写真の存在を指先で確認する。








「君の…恋人だよ」















毎日、壊れたオーディオのように、同じ台詞を繰り返す。
毎日、昔を振り返る。
毎日、同じ会話を繰り返す。

***************


君が朝目覚めて、俺の名前を呼んでくれるその日まで。
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