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「まーた風邪か」
「うん」
「いい加減飽きるだろ」
「うん。だからお願いがあるんだけど」
「外に連れ出してっていうのはアウト」
「…チッ」


汚く舌打ちするのと同時に、少しだけ咳き込んだそいつを、俺は慌てて布団に寝かしつけた。
眠くないのだといわんばかりにじとりと睨みつけてくるのを、やかましいといわんばかりに睨み返しておく。


「お花見行きたかったのになぁ」
「お前の風邪が治るのを待ってたら葉桜だな」
「だよね…ちぇー」


唇を尖らすそいつの額に、ペチリと濡れタオルを置く。
冷えピタは肌が痒くなる感じがして嫌なのだそうだ。
ついでに濡れタオルを作る過程で冷えた俺の手を、そのままそいつの火照った頬に添えてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
お前は猫か?


「お花見ー……」
「……風邪が治ったら新しく出来たショッピングモールに連れてってやるから、そこで存分に花を見ろ」
「……花屋とかいうオチだったらぶん殴る」
「アホ。花をモチーフにした店があるとかでクラスの女子が騒いでたんだよ。多分お前も好きだと思うし、快気祝いに何か安いのなら買ってやる」
「えっ! ほんと?!」


きらきらと目が輝いているのは、風邪で潤んでいるからだろうか。
勢い余って身体を起こしそうになったそいつをやんわり押し止め、ずれてしまった濡れタオルを再び額に乗せてやる。


「嘘じゃねぇからとりあえず寝ろ」
「約束だからね! 嘘吐いたら針千本刺すからね!」
「飲ますんじゃないのかよ」
「飲めない約束はするもんじゃないもん」
「……マジで刺す気かお前は!」


少々強めにタオルの上からおでこを叩く。
タオルがあるから緩衝材にはなっているけれど、それでもそれなりの痛みは与えられたようで、そいつは顔を顰めて不満をもらした。
もちろんそんな不満は耳に入れるつもりはない。


「ほれ、さっさと寝ろ病弱女」
「うん、お休み元気だけ男」
「……」


どうしてこうも一言多いのか。
見た目だけでいけば典型的な病弱少女にも関わらず、だ。
とはいえ、本人にこれをいうと「あんたがいつも近くにいてくれるから、口調が移ったんじゃないの?」とあっけらかんと言われた。
その返事に、実は顔が赤くなったなんてこいつには言えない。



近くにいる、というのと
近くにいてくれる、というのとでは全く意味合いが違うじゃないか。




こうやって些細な事で俺を喜ばせてくれるこいつは、天性のタラシか何かだと思う。
病弱という理由で大半をベッドに縛り付けられているこいつを可哀想とは思うが、元気はつらつだったらさぞや世の中の男が放っておかなかった事だろう。
そう思うと、病弱でよかった、などと勝手な事を思ってしまった。


「ねーねー」
「ん?」
「おやすみー」
「…おやすみ」







『私が「おやすみ」って言ったら、ちゃんと「おはよう」って言ってね?』


『勝手にいなくなっちゃったりなんか、しないでね?』








小さい頃の約束。
「おやすみ」と言ってしまったからには、途中退場は許さない・起きるまでは傍にいろ、というこいつの我侭を、俺は律儀に守り続けている。
見た目は儚げで、言動はどこか乱暴だけれど、根っこがとんでもなく寂しがりやなこいつの目覚めを、俺は何度見てきただろうか。

寝つきが恐ろしく良いこいつは既にスヤスヤ寝息を立てていた。
時計をチラリと見て、統計的に2、3時間は起きないだろうと予測をたてる。
カーテンの開いている外を窓ガラス越しに見れば、遠くにある桜並木がよく見えた。そういえばここは高台だからそりゃよく見えるだろう。
花見に行けない事を悔やむだろう。


「仕方ないな」


そう呟いて、まだ冷たくはあるけれど念のために、と濡れタオルを限界まで冷やしてから、再び額に乗せる。それでも起きない辺り、こいつはどれだけこの感触に、俺の気配に慣れているのだろうか。
それでも起こさないように細心の注意を払い、携帯と財布だけをポケットにねじ込んでからゆっくり立ち上がり、そっと部屋を出た。

階段を降りてから、台所に立つあいつの母親に声をかける。


「おばさん、ちょっと出かけるけどすぐ戻るから」
「あら、そう? どこに行くの?」
「ちょっと花泥棒」
「まあ!」


にかりと笑ってそう言うと、あいつに良く似た…というか、あいつがよく似た母親がクスクス笑って「気をつけてね」と見送ってくれる。
玄関先に置いておいた自分のチャリに跨り、目指すのは桜並木……を、管理している事務所。
頭を下げて、下げて、下げまくったら一枝位桜をくれないだろうか、と思いつつ。

***********


驚く顔と、喜ぶ顔が見たいから。
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