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雪で徐行を続ける電車に苛立ち、電車を降りれば今度はノロノロと走るタクシーの運転手に罵声を浴びせたくなる気持ちをこらえ、やっとたどり着いた真っ白い建物。

もつれそうになる足で歩き、案内された場所はICU。
入り口には、兄がいた。
何も言葉をかけず、ただ入り口のインターホンで入室の許可をとる。


『ご家族でも入室はご遠慮願いたいのですが……』


そうインターホンを介した機械的な声がする。
それに対して兄は名を名乗り「いつ入ってもいいと言われているのですが」と淡々と告げると、インターホンの向こうの看護師は名前を聞いて『どうぞお入りください』とさっきとは違う事を言った。

名前を言うだけで、入ってはいけない場所に入れる。
それの意味する事を、私は確かに理解していた。


その向こうで待っている人が、今にもこの世界から消えそうになっている事実を、こんな些細なやりとりで理解してしまった。




入ってすぐにあったのは、よくある大部屋のような場所だった。
ただ、違うのはどこも白いカーテンで区切られている事と、普通の大部屋にはありえないほど物々しい機械の数。
あとは、見舞い客の話し声すらしない。
ひっそりしている分、機械の放つ小さな音がやけに耳に残った。

そのどこかにいるのかと思えば、そこではなかった。
その大部屋を通り過ぎたもっと奥。
カーテンではなく、壁で区切られたそこ、に。
いた。





真っ白い部屋。
真っ白いベッド。
真っ白い機械。
真っ白いあの人。
真っ白い、真っ白い、まっしろい、私の、頭のなか。







「うわぁあぁぁあ!!!!」









口から出たのは、絶叫に近い泣き声だけで。
堪えていた感情は言葉にすらならなくて。
ただ、バカみたいに泣き叫んだ。








泣き叫んで虚脱した私に、医師は説明をしてくれた。


意識が戻れば、処置を続ける事が可能である事。
けれど心臓は機械によって動かされている事。
脈が少しずつ弱くなっている事。



淡々と説明をしてくれる事に、私は何も反応しなかった。
それでも医師は気を悪くした風でもなく立ち去る。きっと、こんな風に反応をしない人間の扱いにも慣れているのだろうとぼんやり他人事のように思った。
ただ、その扱いは今の私にとって何よりもありがたかった。


兄は時々機械によって上下に動く胸へと手をやっている。
とにかく、傍らを離れなかった。

私は壁際の椅子に座ってその様子を見ている。
とにかく、触る事が出来なかった。



触れてしまえば最後、きっと私はその人に繋がる機械を全て引きちぎっていただろうから。



機械でしか動いていないなら、引き抜いてしまえばいい。
そんな無理やりな人生、その人は望んでなんかいない。
痛いことも、苦しい事も、その人はもう経験した。
もう、楽にしてあげればいいじゃないか。






それとも、私を待っていてくれたのだろうか。














結局目を覚まさないまま、その人の鼓動は止まった。
機械は止められた。
涙は、なかった。
ただ、ゆっくり、ゆっくり鼓動が止んでいくのを見つめた。音を聞いた。

最後に告げられた時刻を脳に深く刻みつける。
頭を下げた医師に、兄も私も頭を下げる。





医師も、看護師もいなくなって、残ったのは動かなくなった人と、兄と、私。
白い空間に取り残された私は、兄に強く抱きしめられる。
そして兄がまるで言い聞かせるように呟いた言葉を聞いた瞬間、私の感情はまた爆発した。
ただ1つの単語を繰り返し叫んだ。






もう届かない言葉。
届けられない言葉。









「おかあさん……おかあさん…おかあさん!!」



死に際に間に合うというのは、意識のない人にも適用されるのだろうか。
私は、間に合ったのだろうか。




****************


私は、間に合わなかったのだ。
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