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真新しい軍服に身を包んだその人は、凛としていて美しかったのです。
その瞳には何が映っているのだろうと、覗き込めば、覗き込んだ私だけが映っておりました。













「……どうか、しましたか?」


男がにこりと微笑んで首を傾げる。
私は少しだけ喉を詰まらせながら、「いいえ」と小さく呟いた。
男は困ったように笑うと、「そうですか」と私と同じように小さく呟き、手にしていた軍帽を深く被った。
たったそれだけの仕草なのに、私の知っているその人ではなくなってしまったかのようで、私は思わず袖を掴んだ。
男は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく笑って私の手を覆うように握ってくれた。


「いつものあなたらしくない。いつもなら私を追い出す勢いで送り出してくれるのに」
「っ……それは一体どういう意味?!」
「ふふ。そうそう。そんな感じで怒りながら僕の背中を押すんです」


私が真っ赤になって目を吊り上げると、男はくすくす笑った。
その顔があんまりにも綺麗で、私は怒るのも忘れて見惚れた。
元々怒ってなんかいなかったけれど……。


「…どうしました? 本当にいつものあなたらしくない」


男は微笑を浮かべて私の頭を撫でる。
いつもそうやって子ども扱いする。
それを私はいつも怒ったけれど、今は払いのける事もできなかった。
だって、子ども扱いすらも私には嬉しいふれあいだったから。




それが今、私の手の届かない所に行こうとしている。









「――――――…っ…ぃで…」
「え?」
「行かないで! 私の傍にいて! どこにも行かないで…っ!!」


堪えきれず、涙を流しながら私は男にしがみついた。
真新しい軍服からは、いつもの男の香りがしなかったけれど、いつもの男の温もりはあった。
こんなに近くにいるのに。
こんなに温かいのに。
ずっとずっと一緒にいられると思ったのに。



「……すみません」
「謝らないで! 一緒にいてくれるだけでいいから! どこにも行かないでここにいて欲しいの!」
「すみません……」


しがみつく私を優しく抱きしめる男の腕。
あたたかで、優しくて、大好きな腕。
これがなくなってしまうの?
どうしてなくなるの?
どうしていなくなるの?


「お願い…行かないで……っ…」


子どものように泣きじゃくる私を、男はただ謝り続け、そしてあやし続けた。
弁解もせず、私が我儘を言う度に言ってくれた「あなたが望むなら仕方ないですね」という言葉もなく、ただただ謝り、あやした。






ようやく泣き止んだ私を、男はそっと離す。


「もう、行かないと」
「いやっ…!行かないで! 傍にいて……っ……………」


また零れ落ちた涙を見て、男は切なそうに笑みを浮かべる。


「…その我儘だけは聞けません。あなたの願いは全て叶えたいけれど…その我儘だけは聞けない」
「…っ……」
「だから………すみません」


にこりと笑うその顔はいつもと同じで優しかった。
けれど、初めてその笑顔が残酷だと思った。
涙の流れる私の頬を撫で、雫を袖で優しく拭ってくれる。
そんな仕草さえ、優しくて残酷だった。


「…じゃあ、約束して?」
「何をですか?」
「私のところに、かえってくるって」
「…はい」
「約束よ? 必ずよ?」
「はい。約束します」


何度も念を押す私に、男は笑って頷いた。
約束の証というように、私が念を押した数だけ口付けてくれた。


「必ずあなたの元に、かえります」
「うん」


そして私は初めて笑って男を送り出した。
















私は知っておりました。
男は死ににゆく事を、誰よりも知っておりました。
生きて帰る事がないのは、誰よりもよくわかっておりました。
けれど、約束したのです。
男は「かえってくる」と。約束してくれたのです。

だから、私は待ち続けます。
男が還ってくるのを、待ちます。
愛しいあの人が、私の大好きなあの笑顔で戻るのを。







―――――約束よ?


  ――――――必ずあなたの元に、還ります。

*****************************


元ネタは某大河ドラマだったりなかったり。
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